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2023.10.05 第11回大東建託賃貸住宅コンペ計画地を語る|高崎丈

高崎さん写真

高崎丈  

「高崎のおかん」オーナー料理人・双葉町出身

  

双葉町とのかかわり

僕の両親は双葉町で飲食店を営んでいました。自分自身も双葉町で生まれ育ち、東京の飲食店で修行をしていつかは地元に戻り自分のお店をやりたいと思っていました。2009年に家族と共に双葉町に戻り、居酒屋「JOE’S MAN」を開業したのですが、2011年の東日本大震災で双葉町が甚大な被害を受け、自分たちも被災し、お店は閉店せざるを得なくなりました。その後は再び飲食店に勤務し働き詰めだったので、僕が双葉町に一時帰宅したのは2013年になってからでした。
初めて震災後のまちを見た時は、自分に何かできると思えない状況だったこともありますが、まずはお世話になった会社や家族のために結果を出すことしか考えられず、双葉町のことまで考える余裕はありませんでした。
2014年に、やっと東京の三軒茶屋で「JOE’S MAN 2号」をオープンすることができたのですが、コロナをきっかけに一度閉店し、2021年末に営業スタイルを変えて「髙崎のおかん」という燗酒の魅力を世界に発信するお店を開業しました。
お店を始めるにあたって様々な方との出会いがあった中で、『アートを目的とするか手段とするか。僕等はアートを手段として表現する。アートで日本を変える』という言葉を語りかけてくれたOVERALLsの赤澤社長との出会いは、僕の人生やその後の双葉町での活動に大きな影響を与えるものとなりました。
僕も飲食業を通じて社会課題の解決と向き合い、日本を変えたい。そんな飲食人として生きたいという思いを抱き、赤澤さんの「日本でも、ART DISTRICTを実現させたい」という想いと、僕自身の「双葉町をアートで再生させたい」という考えが一致し、「FUTABA Art District」という福島県双葉町をアートだらけにするプロジェクトが実現することになったのです。2022年3月には双葉町民の顔を建物の壁に描く壁画アート制作が実施され、いま活動としては一区切りしていますが、様々なメディアで取り上げていただき、双葉町の状況を全国の皆さんに発信する機会となりました。ほかにも、東日本大震災の風評被害を受けて困っているお米農家さんを助けたいという想う酒蔵さんに感銘を受けて福島県南相馬市産の酒米を醸した終わった後に出てくる酒粕を使ってクラフトジンの開発なども行っています。
はじめは個人で活動していましたが、自治体と一緒に何かをやっていくことや、幅広い展開を考えると個人だと限界があるため、双葉町の復興に寄与できる事業展開を目指したいと思い、2021年には双葉町に株式会社タカサキ喜画を設立しました。
現在は2ヶ月に1回、多い時は月に2回ほど双葉町を訪れて活動しています。

双葉町においてのこれからのまちづくり

双葉町は避難指示が解除された最後のまちなので、まだまだこれからといった状況です。周辺地域は、南相馬市は民間ベースのスタートアップ系の会社が入り移住定住の人が増えていたり、浪江町や富岡町は解除が早かったので、すでに行政がいろいろな取り組みを進めています。大熊町と双葉町は状況が割と似ているのですが、双葉町の方がまちの耐力がない。そこからのスタートです。
この、マイナスな要素しかないと思われているまちに対して、どうまちをつくっていけるのかを日々考えているのですが、僕は飲食業に携わっているので、野菜の自然栽培に従事する方やお酒の生産者さんたちの話を聞く中でひとつ自分なりの見解を持ちつつあります。
自然栽培をしているみなさんとお話をしていて気がつくのは、心の豊かさです。自然と向き合い農業をするのは大変なことだと思うのに、みなさんおおらかで温かい。なので、双葉町にもそういった畑をつくったらよいのではないかと思ったんです。畑ができるのではないかと思ったのには理由があって、自然栽培をするための土をつくるには肥料や堆肥を抜かないといけない。それって何年もかかるんです。でも双葉町は震災から10年以上人が住んでいない状況なので、ちゃんと調べているわけではないですが、そういったものが抜けているんじゃないかと思うんです。何もやっていない、人が入っていないことが普通はマイナスなのですが、この場合はプラス、メリットになるなと。自然栽培の野菜を育てるエリアとして双葉町が発信していくと、それをやりたい生産者さんはたくさんいるので、そういう方にとっての魅力ある場所になり得ると思います。
移住定住を目指すといっても、単に人に増えればよいというわけではなくて、少ない人数でも面白い人がいるまちの方がより面白いことが起こるし、まちとしてのマネタイズを生む力も持てるようになると。民間で発信できるプレーヤーが増えた方がよい。そのコンテンツのひとつとして行き着いたのが「畑」だったんです。
僕が東京のお店で扱っている茄子も自然栽培なのですが、美味しい料理をほかで食べているお客様たちに出しても、「食べたことのない味」と言っていただき、とても好評です。それは僕が作り出しているわけではなくて、その茄子を育てる土壌、30年以上肥料や農薬を入れていない土でつくっている茄子だからその味になるんです。もし双葉町でそういう特産物をつくれたら、風評被害なども吹き飛ばせるくらいのキラーコンテンツになると思います。

双葉町に住む(賃貸住宅)ために必要とされる仕組みとは

いま移住してきた方が60名(R6.9月時点)ぐらいいると思うのですが、僕が話した人たちは、双葉町には小さなコミュニティがあるので何かやっていこうという気持ちになると言っていたんですよね。単に仕事の行き来しかなくて隣には誰が住んでいるかわからないという状態ではなくて、双葉町に移住して、人が少ないからみんなが協力し合える横のつながりがあって、それがありがたくて楽しいと。なので、人が少ないことのよさを失わないような暮らしのあり方を目指していくことも大切なのではないかと思いました。
あと、もともとここに住んでいた人が戻って住まうことと、新たな移住者をどう受け止めていくかもナーバスな問題ですが考えてみる必要があると思います。行政主導だとフラットな対応にならざるを得ないと思いますが、まちのことを考えての提案として何か仕組みを考えてみることが必要ではないでしょうか。

応募者の皆さんへ

双葉町の復興は、建物ありきで考えない方がよいと僕は思っています。逆にないことを生かす。ない環境下を生かす。それがきっと必要なんです。とはいえ、これからまちが育っていくにはマネタイズはあるべきなので、何もない状況を生かした仕組みがある中で建物がマネタイズに寄与する、そういうかたちであることが意味があり価値があるのではないかと思っています。その部分に接続されていない建物は双葉町でやる意味はなくて、ほかでやればよいです。
建築のかたちではなく、マネタイズの仕組みを生み出せる建築のあり方を考えていただきたいですし、そこにとても興味を持っています。