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2024.06.04 第12回大東建託賃貸住宅コンペ第12回|審査委員コメント

審査委員長コメント

重松 象平
OMA NY 代表/九州大学BeCAT センター長

京都を変えていく流れにチャレンジする

今、祇園でプロジェクトを行っているので時々京都を訪れています。京都は祇園祭りに代表される、まちで行われるお祭り(行事)が今も文化として残り、コミュニティ形成やオペレーションにおいて役割を担っていると感じます。また、まちと行事が京都の風景に連動しているのも印象的で、大文字焼きのように山に囲まれた地形を利用した壮大なお祭りがあったり、神社を中心としたコミュニティレベルでのお祭りがおのおのの町内で行われて、季節ごとの風景を生み出しているのもとても興味深いです。お祭り(行事)は、周辺産業や伝統工芸といった幅広い職域を生み出し、その気質が京都ブランドという京都ならではのあり方も生み出しました。京都で住まう時間、その中にある潜在価値はまだまだ奥深いものがあるように思うので、その新たな発見に繋がる提案を楽しみにしています。僕がもうひとつ最近注目しているのは、京都における伝統的なものと現代的なものとの融合です。以前は古いものを壊して現代的な建築が建つことは批判されがちでしたが、最近のホテルの建ち方やアートの手法は、伝統的なものを生かしたあり方を目指す傾向があり、うまくいっているように見えます。それはインバウンドの影響もあると思うんです。彼らにとって日本の伝統的なまちや建物こそが訪れる価値です。顕在化された価値観によって、そこに住まう側の気づきが醸成されてきたのではないでしょうか。最近、海外のラグジュアリーブランドのホテルが京都市郊外の社寺仏閣境内にホテルを建てる計画なども進んでいます。伝統を重んじる京都の価値観において今まであり得なかったことが、新たな可能性を認識することで変わってきた。京都に対するリテラシーが国内外共に上がっている表れでもあると思います。
このような状況がある中で、今回のコンペで京都という敷地を目の前にして、抽象的かつロマンチックに捉えすぎないように気をつけてほしいです。京都が今後どうなっていくのがよいのか、フォーカスした部分をどう解釈し、データを集め、賃貸住宅の事業や形態とするのか、スターティングポイントと裏付けるデータ、その後のフレームワークづくりやプロセスといった一連から読み取れるストーリー性をしっかり考えていただきたいです。


重松象平

審査委員長 重松象平氏


審査委員コメント

横川 正紀
ウェルカムグループ 代表

住みたい京都、の提案を

第12回のコンペは、みなさんが京都に住まうイメージをそれぞれに想定し、考えてみてほしいです。僕は京都に住めるとしたらとても嬉しいし、ホテルとは違う自分の拠点としての賃貸住宅の新たな借り方があればぜひ知りたいです。京都のイメージといえば京都市内のグリッド状のまちや神社やお寺のある風景かもしれませんが、北部の海沿いエリアにも魅力的で面白い場所がたくさんあるし、山間部は自然豊かで牧場もあったりします。僕は丹波を抜けて豊岡市の城崎温泉へ行ったり、福知山のレストランを訪れたことがありますが、道中の光景は素晴らしかったです。ぜひ京都市だけではない京都ならではのその土地ごとの個性を引き出した提案を考えてください。
もちろん京都市、観光客が集まるエリア周辺のまちも住みたいと思う場所がたくさんあります。僕は大学が京都だったので、学生時代は京都郊外の賃貸アパートに住んでいました。共同風呂だったし、今のように充実した住まいではなかったけれど、周辺の飲食店は充実していて、学生だけが使える、井戸端ができる場所がたくさんありました。僕は京都のグリッド状の町のスケールは文化的側面を持ったスマートシティだと思っているんです。縦横に巡る通りごとに歴史・物語があって、グリッドの端から端に行くのに自転車で15分か20分。そんなスケールのエリアの中にあれだけさまざまなものがあるまちは、なかなかほかにないですよね。とても豊かだと思います。
つい最近まで毎週金曜日に大学の講師として京都に通っていたのですが、京都に行けるのが楽しみで仕方なかったです。観光だけでなく住まう視点でもそう思わせる魅力が京都にはたくさん詰まっていると思います。なので京都に単純に住むということだけでなく、一時的もしくは複数拠点としても何か新しい枠組み、賃貸住宅の新たなあり方を考えてほしいです。そこに住みたいと思う地域との繋がり、中長期的に住む場所にとっての縁は何になるのか。今回は周辺環境の読み解き、場所の持つ力を応募者自身が見つけ出す必要があると思います。歴史のまちで終わらない、新たな京都の魅力を深掘りした、住みたいと思える賃貸住宅に出会えることを期待しています。


横川 正紀

審査委員 横川正紀氏


林 厚見
スピーク共同代表/東京R不動産ディレクター

地域課題の解決を意識しすぎず、日本や世界へ広がる想像を

僕は数年前、家族が京都に住み自分は週末に通うという生活を1年ほどしていたことがありますが、経済論理では決して残らないものがたくさん残っているまちの姿や、無駄な手すりもゴミもない鴨川沿いの風景を見たりして「ここには敵わないな。ここでは自分のやることがなさそうな気がするな」と思ったりもしました。他の都市ではありえないまちの文化度の高さを感じながら、何がそれを生み出しているのかをいつも考えさせられます。自分にとっての京都は“特殊な場所”というより、近現代の社会の常識や仕組みを超越したところに、もっと長い時間軸でしか見えてこない人間社会の本質や普遍性を見い出すべき場所、という感覚があります。
近年は京都といっても本当にさまざまな地域や場所に多様な課題があると思います。ただもしかすると、“地域の課題解決”を意識しすぎると、視野が十分に広がらなくなってしまうかもしれません。まずは京都という地域が持つ固有の「意味」についてさまざまな角度から考えてみてほしいです。それは京都固有の“魅力”や“特徴”といったものに限りません。京都が持つ独自の価値観や社会規範・構造といったものに潜む、これからの日本や世界にとって重要なメッセージは何かという目線かもしれません。この場所での賃貸住宅の提案を通して、これからの時代の社会や都市の普遍的課題の解決につながるようなヒントが見えてきたら……という期待を持っています。それは案外、小さな情緒的なアイデアかもしれないし、ラディカルで大きな発想かもしれません。いずれにせよ京都の懐の深さは、提案に遠慮を必要としないでしょう。
去年からこのコンペは「まちへ出る」ことになりました。前回は福島県双葉町が舞台だったこともあり、空間的・物理的な意味を超えて地域の未来へ繋がるシナリオを考えて賃貸住宅の提案と融合することを求められる面がありました。建築分野以外の人も提案作成にコミットできたら、視点の広がりや深さにリアリティが出ただろうなぁと思う案が多い印象でした。それは今回も同じことが言えるのではないかと思います。“それぞれが選んだ京都”の今と未来(あるいは歴史)と、日本のまちの未来・住み方の未来を繋げて想像してみてください。


林氏

審査委員 林厚見氏


瀬川 翠
建築家/Studio Tokyo West 代表

自分なりのまちの捉え方を工夫し、京都のまちを巡ってみては

京都御所近くの碁盤の目状のまちのエリアで町屋をリノベーションしたことがあります。うなぎの寝床状の空間と向き合い、薄暗い空間の奥に差し込む光の美しさなど他にはない空間性に魅了されました。伊根や舞鶴など京都北部の海沿いの地域のほうに行ってみると、漁師船に泊まれる舟宿があって、その船がピットインできる舟屋という建物が建ち並び、京都中心部とは違った産業様式が見られます。社寺仏閣や町屋のある風景だけではなく、ぜひ、周辺に広がるさまざまな土地のありようにも目を向けていただけたらと思います。
今回は住まうまちがテーマとなっているので、住まうことのリアリティに向き合うことが重要だと思います。コンセプトやストーリーの面白さだけを追い求めず、しっかりと地域に根差して暮らすイメージを持つために何ができるかを考えてみてください。私はまちをリサーチする時は、できるだけキッチンつきの滞在場所を選び、可能な限り生活者目線で過ごすようにしています。どんな食材が美味しくてどこで手に入るのか、個人商店なのか、スーパーなのか。また徒歩で巡ることができるのか、自転車や車でないと回れないのか。そうすると短い滞在の中でもまちを五感でとらえることができます。
前回、福島県双葉町を敷地としたコンペの際には、壮大な敷地設定もあってか、集まって住む意味やあり方に関しての提案はできていましたが、プランニングまで詰められている案が少ない印象でした。今回は身体スケールから派生した空間が京都のまちと連続し、新たな様式や風景になっていく様子を表現しきってほしいです。
はじめて審査委員としてこのコンペに参加して、事前審査でも想像以上に深い議論が繰り広げられているということを知りました。私が学生の頃にこのコンペに応募した時には、パースのインパクトや目を惹くプレゼンを意識してしまっていましたが、絵の上手い下手ではなく、提案内容をしっかり拾い上げ議論されています。今回の敷地である京都は、日本だけでなく、世界にも発信できる多様な魅力を持つ場所です。京都の魅力を顕在化し、私たちにも新たな気づきがある、そんな提案をお待ちしています。


瀬川翠

審査委員 瀬川翠氏


竹内 啓
代表取締役 社長執行役員 CEO

京都ならではの賃貸住宅の魅力を見い出してほしい

大東建託賃貸住宅コンペがまちへ出る。はじめての試みだった第11回目は、東日本大震災後に原発事故の影響で帰宅困難区域となり、避難指示が最後に解除された福島県双葉町で開催しました。みなさんには賃貸住宅の新たなあり方がこれからのまちの課題とどう向き合えるのか、難しいテーマを解いていただき、私自身もとても勉強になりました。双葉町のご協力もいただきながら、まちの未来を考えられたことに意味があったと思っております。
第11回のさまざまな経験を踏まえ、第12回目のコンペは京都へと赴くことになりました。誰もが一度は訪れたことがある地域で、新たな賃貸住宅のあり方を考えていきます。
京都でいちばんにイメージされるのは観光地としてのまちの風景だと思います。でも私は京都の北の方に仕事で訪れたことがあり、そういった場所で人口減少から派生する問題から新たな建物の建設が事業としてなかなか成立しない経験をしました。最近発表されたデータでは、府内26市町村のうち9市町村が「消滅可能性自治体」に該当し、2014年の13市町村からは減ったものの、新たな賃貸住宅が建てづらい状況は若い世代の地域定住を妨げ、問題の深刻化を招いているようにも思います。
一方で京都市内も観光事業は堅調ですが、地価の高騰やオーバーツーリズムなど、人が住まう環境としての別な問題を抱えています。どちらも京都の今の課題です。
実際に京都のまちを訪れ、京都市内で既存の建物をリノベーションしてホテルや住居とする傾向に興味を持ちました。先日私が滞在したホテルは、普通の民家がリノベーションされ、入口は民家の構えを維持したまま奥がホテル空間になっている素敵な場所でした。長い時間を経て培われてきた独特の空気感が建物に反映され、京都の美しい街並みが維持し続けられている。こんな佇まいの賃貸住宅があってもよいのではないかと思いました。京都において賃貸住宅をどのように建てるのか。各地の状況を応募者のみなさんにキャッチアップしていただき、ぜひ賃貸住宅の新たなあり方と共にその場所の素敵な光景を描いていただきたいです。たくさんのご応募を楽しみにしています。


竹内啓

審査委員 竹内啓氏