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2023.09.20 第11回大東建託賃貸住宅コンペ計画地を語る|佐々木晶二

語る男

佐々木晶二  

双葉町復興まちづくり計画有識者会議メンバー

  

双葉町とのかかわり

私は国土交通省に約36年間勤め、在職時に阪神淡路大震災、東日本大震災とふたつの大きな災害復興に携わってきました。2017 年に国土交通省を退官した際、双葉町役場に出向している後輩から双葉町の復興再建、まちづくりを手伝ってほしいとの話があり、有識者会議への参加など含めてまちづくりに携わってきました。
さまざまな経験から、公務員の知見だけでできることに限界があることも知っていたので、各地域でまちづくりを行っている専門家として、2019 年頃に建築家の嶋田洋平さんや林厚見さんにもお声がけして、一緒に考えていただく体制をつくりました。
双葉町では、国からの補助金などを使いながら復興が進んでいたのですが、2022 年8 月に帰宅困難区域が一部解除となることを受け、広い敷地が残っていた双葉駅の西側に住宅団地を整備することになりました。この時、とにかく早く建設することが目指されて無計画なまま建設が進みそうだったのですが、そこを改めて今後の住まい方のロールモデルとなるような計画を設計コンペを実施することで実現しました。設計はブルースタジオが行っています(詳細:https://restart-futaba.com/)。
現在は嶋田さんや林さんたちと一緒に、双葉町の将来像を模索しながらまちづくりを推進しています。

語る写真1
双葉駅西側地区 災害公営住宅プロジェクト 駅西住宅

双葉町においてのこれからのまちづくり

これまでに国の予算などを前提にした公共的な事業が進められ、さまざまなインフラ整備が少しずつ整ってきました。まだ帰還できない区域もあるため、公共的な事業対応も引き続き必要ですが、帰還できる区域については、企業や市民という民間主導のまちづくりを行っていく基盤整備がこれから必要になってくると思います。いま向き合っているのはそのフェーズで、どのような方向性でまちづくりを考えていくのかを決めていかなければいけない重要な時期でもあると思います。
被災した地域にはどうしても悪いイメージがつきまとい、なかなか人が戻って来てくれません。特に子どもさんがいるご家族にとってはハードルがより高くなります。双葉町の現状として、安心して生活でき、暮らしやすい環境があることを大前提としながら、戻って来たいと思ってもらえる魅力づくりとその発信が欠かせないと感じています。そのコンテンツづくりの一端として、例えば先行して芸術家の方に多様な空間を使ってもらったり、テーマパーク的な場所づくりを行ってみるなど悪いイメージを払拭するための戦略的な発信も必要です。そういうことにチャレンジしていく中で双葉町にかかわってくれる人や企業を少しずつ増やしていけるようにしたいです。
いま、双葉町にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」には社会見学で各地の小中高の学生さんたちがたくさん訪れています。そういった災害を学ぶ場所としてのまちのあり方みたいなものもあるでしょうし、可能性はある意味無限大に広がっていると思います。
今回大東建託さんのコンペが行われる中で、みなさんが双葉町のこれからをどのように提案してくださるのか、ぜひそこも参考とさせていただきたいですね。

双葉町に住む(賃貸住宅)ために必要とされる仕組みとは

双葉町に住むための賃貸住宅という観点からは、長年まちづくりに関わってきた中で、以下の点が大切だと思っています。

1. 単に住むだけではく、例えば、地域住民と集う、小さな商いをするなどの、生活のなりわいを実現していくこと

2. 旧町民は高齢の方が多いですが、そういった方の居住と合わせて若い世帯などのお試し居住、さらには、双葉町に興味のある芸術家など、双葉に価値を見い出してくれる尖った市民の居住を増やしていくこと。それらの方々に訴求する機能やデザインが必要

3. 現在、双葉町の南端にある福島第一原発には廃炉などの作業で毎日数千人の方が働いており、また、関係する物流も国道6 号線をみると極めて活発です。これらの短期的な需要を引き受ける要素も当然あるが、一時的な賃貸住宅や社宅にならないよう、その後に住む人たちに活用できるという視点も必要

3. についての国道6 号線沿いというのは、今回の提案敷地には入っていない場所になります。でも、現状ではいちばん人や物資の行き来があり、ロードサイドとして可能性のある場所と言えるのではないでしょうか。想像力を広げて、こういった場所ともどのような連携を図っていくのか、大きな町として俯瞰した時には人や物の動きがある場所がもっともポテンシャルを持っていると言えると思います。その点についてもぜひ一考いただきたいです。
新たに双葉町に住んでくださる方を呼び込む町のあり方を考えていく一方で、従来双葉町に住んでいた方、事業をしていた方が戻って来てくれることも大事です。そのための二地域居住、おためし居住、おためし事業のような取り組みも新たな住まい方や賃貸のあり方として考えてみてほしいです。双葉町にはゼロから作り上げることができる可能性が広がっています。この場所だからできる住まい方(賃貸のあり方)が仕組みとして求められています。

位置図 (6号線)
敷地位置図

応募者の皆さんへ

双葉町の風評・悪いイメージを吹き飛ばすような、優れたデザイン、斬新な機能配置などの提案を希望します。まずはひとりでも多くの方が興味を持ってくださることが、このまちが次に進んでいく原動力にもなっていきます。まちが災害を乗り越えていくためには、被災地というイメージ以上のインパクトあるまちづくりをしていくしかありません。もし自分がこの場所に住むとしたらどんな風に住んでみたいか、まちの創造にもつながる新たな住み方(賃貸住宅)の手法は何なのか、たぶん皆さんが今まで向き合ったことがない状況で提案していただくことになると思いますが、私たちが持てなかった気付きに出会えることを楽しみにしています。