第12回|1次審査結果発表 アイデア提案部門 → Read More

2020.09.01 第9回大東建託賃貸住宅コンペ審査委員からのメッセージ

千葉 学

千葉 学 審査委員長

人が環境の一部である認識を持ち,
新たな距離感のつくり方を

コロナ禍において,大勢の人が集まり,高い生産性を目標に多様な営みを繰り広げてきた「都市」の脆弱性が露呈しています.それは,最近増えている自然災害にも同じことがいえます.20世紀は都市化と共に郊外もスプロールし,大量/高速移動とそれを支えるインフラ整備に価値が見い出されてきました.でも,コロナ禍で密になれない状況となり,価値だったものがリスクになってしまいました.これは,都市そのものを見直す契機だと受け止めています.

2011年の東日本大震災の後,復興の設計に携わって感じたのは,多くの人が人と人の繋がりを訴えていたことでした.崩壊したコミュニティ,過疎化した地域の再生にむけて人が集まることは最大の価値だったのです.でも今は逆に,集まらないことが社会規範です.命を守る行動が優先される生活で人はどうあるべきか,この動物的とも言える側面が先鋭的に問われています.どのように集まったり離れたりして暮らすか,この人間同士の距離は設計の根源なのだと再認識しています.そのことを今後はさらに解像度高く見なければいけないでしょう.また換気も同じように叫ばれたことも興味深いです.震災後もコロナ禍も,理由は異なれど換気は必須となりました.20世紀に大量につくられた窓が開かないオフィスビルへの批評でもあり,所詮人間は動物,つまり自然(環境)の一部であると改めて突きつけられているのだと思います.そうした気づきに目を向け,建築は素朴に原点に立ち戻るべきです.

住まう場所としての賃貸住宅が,働く場所にもなるという社会情勢の変化に,さまざまなモード転換を想定した変化が求められると感じています.物理的距離だけでなく,五感で感じる多様な距離の共存が生み出すセンシティブな空間の場所性に価値が求められているのです.また,これからは外部空間もかなり重要になるでしょう.屋外でできることが数多くあるという気づきも,コロナ禍で顕在化した価値のひとつで,住宅におけるウチソトのつくり方にも,新たな構築の可能性が見えてきます.

応募者の皆さんには,今離れていることが必要だからこそ生み出せる繋がりを考えてほしいです.ひとりでいることと繋がることのあり方は空間と一体になって多様化するでしょう.そこにさまざまなデバイスが絡んでコミュニケーションや新しいネットワークも創出されていく.賃貸住宅だからこそ,今までのあり方に捉われることなく,新たな場所の価値を生み出せると期待しています.

赤松 佳珠子

赤松 佳珠子 審査委員

時代の変化から生まれる状況を
新しい時代の価値へと繋げてほしい

大きな変革を受け入れることが難しい日本の社会において,コロナ禍にあることで世代を超えてリモート環境に移行し始めています.この状況をデメリットと捉えず,大きな変革と受け止めてこれからを考えることが大切ではないかと感じています.

人と人が会うことで生まれる価値がある以上,バーチャルの世界だけには絶対にならないはずです.とはいえ今後はバーチャルとリアルの空間は同等に混在し,今までのような床は徐々に必要とされなくなり,リアルな空間は縮小していくでしょう.このことが次の何に繋がっていくのだろうかと考えさせられています.
住まいにおいても,今までの居室の有り様や住まう場所の人の集まり方に変化が生じるのではないかと思っています.今おおらかにワンルームで繋がる住宅(シェアハウスなども)が多く見られますが,何かと共有せざるを得ないあり方では距離が保てません.またリモートワークが前提になると,物理的な距離も必要になります.これは建築にとって新たな課題であり,大きさの問題をクリアしながらも,繋がりを創造することは時代の要請になると思います.

社会認識の変化によって,閉じた箱を空調でコントロールするのではなく,開け放てる住宅のあり方に関心が生まれたり,街のお店も換気を取るために開放的になり,道路に営みが少しはみ出してもよいと,国交省が道路の使用形態について自治体ごとに決めることを認可するなど,人びとの行動規制を変える変化が少しずつ生じています.

現在の多くの戸建て住宅は,日本の高度経済成長期に大量に供給された価値観を変えずに引き継いでいるので,単なる商品として扱われ,スペックばかりが重要視されてきました.しかし今,そういった価値観では立ちいかない状況となっています.これからを生きる若い人たちが,自分たちがどのような暮らしと住まいがほしいのか,その視点を持って新たな住まい(賃貸住宅)を開発してみるべきです.スペックではなく,そこにつくられている人と人のあり様,空間性を,住宅の価値基準としてどのように示せるのか,その表現方法から捉え直してみることも是非応募者のみなさんに考えてほしいです.

疑いなく受け入れてきた社会概念に新たな価値観が望まれているのです.これをポジティブに受け止め,この機会を逃さず,次の時代の価値基準を示す何かを一緒に考えていきたいです.

横川 正紀

横川 正紀 審査委員

日々の暮らしにスポットが当たる今,
それぞれの場所の豊かさを改めて考えよう

僕たちは街のさまざまなお店でお客様と接しているので,人びとの受け止め方が日々刻々と変化するのを感じています.生活に直結した地域はどんどん豊かさが増し活気を失ってはいません.一方で,東京のど真ん中であったはずの東京駅周辺,新宿,品川,六本木などのエリアは本当に人がいない.危機的だと思う反面,今後変わらざるを得ない状況には可能性すら感じます.

僕たちの会社も働き方がリモートメインになりました.リモートになることは自由度がある一方で責任が生まれ,選択の意味性が高くなる.つまり理由がない選択をしなくなります.わざわざ行動するための意味がすごく重要になってくると思うのです.

場所のことで考えると,オフィスビルに便利という理由だけでコンビニやカフェが立ち並ぶ姿がなくなるかもしれません.居る人だけに向けた街づくりが見直され,その場所に来たいと思える,人が生み出す関係性や意味性の重要度が圧倒的に高くなるのではないでしょうか.そう考えると,僕が常々ライバルと言ってきた個人店.彼らが持っているさまざまな繋がりこそ,最強ではないかと思います.

暮らしを軸に20年,日々の生活のハレとケに目を向けて仕事をしてきましたが,今,毎日の時間の中に小さなハレがあったこと,それが社会の仕組みによって見えていなかったことに気付き,こんなにも暮らしの重要度が上がっている時代はかつてないと感じています.今までは仕事や外出,旅行など,外側のことに意識が向き,家に居る時間へのプライオリティは高くなかった.でもこれからは暮らしの場所を最優先する時代になるかもしれません.そのことにとても期待しています.

賃貸住宅においては,そこに住まうことが食べて寝るだけの場所ではなく,自分の時間,暮らしの豊かさ,働くこととの融合,そこに住まう者同士の関係性や街との関係性が捉え直され,ダイバーシティが一気に加速すると思います.今までのフレームはオールクリアにして臨んでほしいです.

東京のオフィスエリアに巨大な空洞ができたぶん,必ず住宅エリアでは密度が増しているはずです.その接点をどうつくれるかを考えるのはワクワクしませんか? 今ある,オフィスにしか使えない床,寝るだけの住まいの床はもういらないですよね.ひとつの館,集合体としてどうあるか,さまざまな場所に新たな可能性が生まれていくと思います.時代を牽引するような提案を是非見てみたいです.

小林 克満

小林 克満 審査委員

社会全体が変革を求められている今,
新たな枠組みを生み出すチャンスに

4月に緊急事態宣言が出てから,社会は今まで経験したことのない状況に直面しています.大東建託も当初は受け入れることに精一杯でしたが,5カ月経った今,コロナ禍以前からずっと議論されてなかなか実現していなかった働き方改革(フレックスやテレワークなど)が,当たり前の生活となりつつあることをある意味前向きに捉えています.

緊急事態宣言で大東建託が最も影響を受けたのは建設事業における営業分野です.今までは訪問による対面重視の営業スタイルでしたが,それができない.そこで,非接触型の営業スタイルへ対応するため,リモートでの営業やタブレットの活用などを試みています.お伺いすることが可能になったお客様宅にタブレットをお持ちし,さまざまな情報をフォローできる社員がオンライン参加して対話を行います.タブレットは貸し出し,リモート環境の整備を大東建託がお手伝いし,今だからこそできるビジネスフォローと共に,新たなコミュニケーションスタイルの構築を目指しています.

オンライン化によって社員個々の連携から全国の支店に広がる大きな社内ネットワークまで,繋がり方の選択肢が多様化することで仕事のやり方も変わり,できることも増えています.過渡期の今は生産効率が落ちるかもしれませんが,ウィズ&アフターコロナを見据え,新たな枠組みそのものを考えることで正解や価値を見つけることができると考え,トライしています.

この状況下だからこそ賃貸住宅に担える役割がある.是非そのあり方をみなさんと考えたいと思い,引き続き賃貸住宅コンペを開催することにしました.

今,働き方や住まい方はどのように変化しているのか.テレワークが当たり前となる社会で,賃貸住宅には何が求められるのか.自分なりに整理してみてください.会社があって働き方があって仕事があるのか,それとも仕事があって働き方があって会社があるのか.家族も,対人関係も,今後さまざまな関係性が変わるはずなので,あり方にまで掘り下げて分析し,新たな生活を考えてみてほしいと思います.また,テレワークが進むことで,都市部のオフィス,商業施設も今までとは違う仕組みが必要でしょう.今まで賃貸住宅コンペでは仕組みの変革を求めてきましたが,現在の状況は個々のリアリティがまったく違うと思っています.是非,今みなさんが直面している今に対して,新たな枠組みを創造していただきたいです.

峠坂 滋彦

峠坂 滋彦 審査委員

今こそ賃貸住宅の価値を社会に示すとき
皆さんの提案が楽しみです!

コロナ禍に突入してからの5カ月間,社会と共に,企業で働くわれわれの意識も大きく変化しました.勤務形態もテレワーク主体となり,オフィスに出勤するのは週に1回程度となっています.私が担当する部門でも出勤率は20%前後です.当初こそ多少の混乱はありましたが,今となっては在宅のほうが捗る業務とFace to Faceで議論を交わす必要がある業務の棲み分けがはっきりしてきていて,その選択自体は個人に任されるようになりました.会社に出勤するのが当たり前だった働き方が変わり,社員ひとりひとりがテレワーク環境に向き合っています.

私たち商品開発部は,5年ほど前から「DK SELECT(ディーケーセレクト)」という住まいの常識を変える,高品質でアレンジできる〈建物〉と,暮らしの常識を変える豊富な〈サービス〉を合わせて,自分らしい自由な暮らしを実現する賃貸住宅総合ブランド構築のため,そのラインナップの拡充に努めています.

その中にはまさしくテレワークに対応できる仕掛けを有した商品もあり,それが今になって脚光を浴び,複数のメディアに取り上げていただいています.

賃貸経営とは長期にわたるものです.時代の変化,ニーズの変化は必ず起こります.その変化をピンポイントで予測することは困難ですが,あらゆる変化に少しずつ対応できる要素(間取りの可変性,拡張性やサービスの附帯)を建物が持っているだけでもオーナーの皆さまの安心感に繋がると今実感しています.われわれはビジネスとして設計を行うため,実現性が求められますが,このコンペでは賃貸住宅の未来を感じさせる斬新な提案を期待しています.コンペに応募される皆さんには想像力を十分に発揮していただき,アフターコロナの社会生活はどのようになるか,またどのようになってほしいか,それをまずは示したうえで新たな生活を実現するための空間を賃貸住宅にどう盛り込んでいくのか.賃貸経営の仕組みと合わせて提案してほしいです.

また今年の賃貸住宅コンペは新しい時代に向けてさまざまな仕掛けが施され,そのひとつとして審査方法が大きく変わります.審査委員がそれぞれ持ち点を配分する方法とし,獲得した点数により賞金額が決定される仕組みとしました.コンペとしても新たな試みにチャレンジします.みなさんが創造する新たな賃貸住宅も,またこのコンペ自体も,次の時代に一石を投じるものとなればと,今からとても楽しみにしています.

木下 斉

木下 斉 審査委員

新たな環境をつくるにはそれに伴う
複眼的視点とマネジメントの変化が必要

社会全般的に見ると,企業や街の商店街など,僕が関わっている地方都市では困っていることがたくさんあり,先が見えない状況です.ただ,自治体含めてテレワークの時代がくるという議論は2000年頃からあり結局何も進んでいませんでした.今になって社会システムの変革が起き,やっと前向きに重い腰を上げた印象があります.

地方都市は東京と違って繁華街のある場所が限られているので,広域からお客様を集めていたお店ほど経営が辛くなっているのが現状で,地元密着型のお店の方が小さなコミュニティ形成に支えられて元気です.繁華街でお金を使ってきた人たちの投資行動が変化し,郊外部で楽しみを見つけるスタイルが生まれつつある中,新たな需要を受け止める事業も順次スタートしています.時代を先取りする人たちはそもそも生活がワーケーションみたいなもの.どんな生活をしたいかのイメージがはっきりしているんです.郊外の家をハブとしながら,都市部に行ったりさらに遠くのセカンドプレイスでの生活も楽しみ,生活と仕事の仕組みをそれぞれに構築しています.特殊な状況にある人たちと思われるかもしれませんが,ここまでとはいかなくても,今後はリモートで仕事ができる環境づくりに,住まいの空間だけでなく,システムも変わっていく必要があるのだと思います.家にデスクを置き,通信環境を整えたとしても,働く会社のマネジメントが共働きする夫婦が家で仕事をするマネジメントに対応していなければうまくいかないのです.そこから改めて考え直すべきです.

また仕組みの問題でいうと,現在の都市・郊外空間には,今の状況にフレキシブルに対応できる中間領域を持つ場所・仕組みが圧倒的に足らないと思います.これからの仕事と家庭の時間を両立させていくために必要な仕組みと空間は何なのか,特に公共空間のあり方に目を向けたいです.

昨年このコンペの審査に関わらせていただき,アイデアや視点はとても面白いと思いながら,最終的なディテールの詰めの甘さを感じました.アイデアコンペなので自由な提案でよいと思いますが,落としどころは大切で,リアリティを持てるからこそそこに説得力が生まれるんです.これからの時代における賃貸住宅は何か,住宅と周辺環境を含めたデザインが求められると思います.建築と都市空間,不動産の接点を複眼的に探らなくてはならないタイミングに今きているなと思います.