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2023.06.30 第11回大東建託賃貸住宅コンペ第11回|審査委員コメント

審査委員長コメント

重松 象平
OMA NY 代表/九州大学BeCAT センター長

コンテキストを自らつくることへの挑戦を

今回のまちは福島県双葉町という東日本大震災で大きな被害を受けた場所ですが、先日僕は東北エリアの別な場所で復興計画の相談を受け、現地を見に行ってきました。その時感じたことは、やはりまだ何もなくて、この場所にまちが再形成されるようになるまでにはかなり長い道のりがあるなということでした。なので今回の双葉町においても、いきなり「賃貸住宅」をつくるのはまったくリアリティがなくて、新しいコミュニティのあり方やコロナ後の地方の可能性の検証をまちを通して実装していく。その可能性をみんなが考えていくという部分で、まちをゼロから捉え直すよい機会になるのではないかと思いました。文化人類学的に新しい村やまちが形成される時、人間にとって根源的には何が必要なのか、そこまで考えられるチャンスであり、新しいものを作り上げる難しさと楽しさの両方がある。そういうと無責任なようにも聞こえますが、シリアスな視点だけではまちにとっての未来が明るいものに繋がらないのではないでしょうか。
今回建築を提案できるいくつかの敷地は駅周辺に位置しているのですが、もしみなさんがこの場所を訪れてまちを見る時には、そこにある地形を読み取り、ここにゼロから村やまちをつくるならと考えてみてほしいです。いま僕たち建築家はコンテキストに対応することに慣れすぎていると思うのです。僕は中国や中東で何もないところに建築をつくる機会があったのですが、やはりその時に有効だったのは敷地や周辺の地形や環境条件を丁寧に読み解くことでした。まずは今の状況を感じて、そこからどういうきっかけでつくっていくかを考えてみてほしいです。双葉町はまったく何もない状況ではないと思いますが、その感覚でまちを見てみてください。
それから新たなまちを考える上で、さまざまなレベルの公共性も意識してほしいです。自分の家を出たらすぐにパブリックスペースと接するというのではなく、その間をつなぐ空間の有り様とか、公共エリアのレベル感とその境界線をどうつくっていくのか。街区や今までの都市の根幹を成してきたさまざまな要素を再考できるチャンスであり、直感的にエネルギーを感じられるような、前向きさを象徴するようなそんな提案を期待しています。


重松象平

審査委員長 重松象平氏


審査委員コメント

横川 正紀
ウェルカムグループ 代表

価値観の変化を前向きに捉えた具体的な創造へ

第6回から10回の賃貸住宅コンペで審査委員としてみなさんのアイデアを拝見させていただきましたが、僕がもっとも印象的だったのは第6回の豊島区をテーマとしたコンペでした。豊島区は池袋という大きな駅周辺エリアがあったり、木密地域があるなど課題もさまざまで、だからこそ具体性が鮮明に見えていたのが面白かった。今回、このコンペが「まちへ出る」という大テーマのもと、地域と一緒に課題と向き合っていくので、より具体的な提案に出会えるのではないかと期待しています。
第11回目の敷地となる福島県双葉町は東日本大震災で甚大な被害を受けた場所ですが、震災という出来事は防災の観点だけでなく、さまざまな価値観を変革させる機会となったのではないでしょうか。僕たちウェルカムグループ事業のひとつ「TODAYʼS SPECIAL」というブランド。これも東日本大震災後の意識の変化がきっかけで生まれました。震災後、みんなで被災地支援で足を運び、現地の方ともお話をして、そこでの気付きはDIYをはじめ「自分たちひとりひとりにできること」に立ち戻ることの大切さでした。デザインやブランドより、本当に生きていくために必要なもの、自分とものの本質、そういったところに時代の意識は移行していると感じたのです。そこで、震災がきっかけで不振になっていた別のお店を、建築家の長坂常さんと一緒にフルDIYして「TODAYʼS SPECIAL」としてオープンしました。今あるモノやいつものコトをどうしたらもっとよくできるのか。ブランドの根幹から考え直し、お店のあり方やつくり方までを変えてみました。
今回の双葉町の状況は、深い問題を含んでいるだけに、単に「賃貸住宅」を考えるということだけではない、幅を持った視点からアイデアを考えていくことができると思います。そこにある生活、地域と人との関わり、それらをつくり上げていくために賃貸住宅がどういった役割を果たすべきなのかが問われます。存在意義そのものから向き合わなければいけないのでとても難しい課題になりますが、震災やコロナといった私たちの既存の価値観を揺るがす出来事を逆に前向きに捉え、みなさんの考える力で次の時代に繫がる新たな価値を生み出してほしいです。楽しみにしています。


横川 正紀

審査委員 横川正紀氏


林 厚見
スピーク共同代表

哲学的な見地に立ち戻り,まちの道筋をデザインしてほしい

僕は3年前の2020年から、国交省OBの佐々木昌二さんや建築家の嶋田洋平さんらと共に双葉町に関わりを持つようになり、行政の方々や震災以前に住んでいた住民のみなさんと双葉町のこれからのあり方を考える議論にも参加してきました。
震災以前に双葉町に住んでいた方の多くがすでに他の地域で生活基盤をつくり、戻らないことを決めており、2021年秋から一部地域が帰還可能になったとはいえまちにいま住んでいるのは数十世帯に過ぎません。そういった中でそもそもの復興や再生の目的とは何なのか。まちはそこまで立ち戻る必要があると思います。僕が双葉町と関わり始めた頃、双葉町では帰還者向けの住宅建設の事業、そしてインフラや工場用地エリアの整備が進められていましたが、まちが将来どうなっていくことを目指すのかという問いに対して、具体的な仮説や方向性はありませんでした。そこに大きな不安を感じ、そもそも「どのように考えていくのか」有識者や地域関係者の方々へヒアリングを行ってヒントを探り、少しずつ意識を共有している段階です。今回のコンペでも、建築をどうするかの前にそうした哲学的なレベル話にも立ち戻る必要があると思います。一般的に、衰退している地域で建築ができることを考える時、なんとなく“活性化”や“賑わい”の話に向かいがちですが、もっと人類レベルでの意味や考えるべきことがある場所でもあるので、長期的な、あるいは大きなスケールの視点と、地元のおばあちゃんの視点。その双方向から考えてほしいと思います。
いまの双葉町にとって、元々住んでいた人、働いていた人、そしてこのまちが持つ固有の状況をふまえて社会にとって何らかの意味を生み出す人などの、主体的な意志が生まれることがここからの出発点になると考えています。暮らしを支えるアメニティも不十分な場所において、住むということの意味を広く捉え、人の何らかの意志や行動につながっていくようなストーリーが伴うべきと思っています。
地域の未来像を想定し、そこに向けた筋道を考える。まちと向き合うというのはそれが欠かせないものだと思います。建築の枠組みを超えて、さまざまな分野の人とコラボレーションしながらこの課題に取り組んでいただけたらと思います。


林氏

審査委員 林厚見氏


瀬川 翠
Studio Tokyo West 代表

自らプロジェクトをつくり出す意識をもって提案を

私が学生の時、大東建託賃貸住宅コンペは非常に注目度が高く、何度か応募しました。最優秀賞を獲ることはできませんでしたが、あの時いろいろなことを考えたコンペに、今回審査委員として参加させていただくことは感慨深いです。
賃貸住宅コンペの特徴でもある「空間と仕組み(企画)」を考えることは、これからの時代のアーキテクトにとってとても重要な能力だと思います。自ら企画してプロジェクトを生み出すことができれば独立のハードルもぐっと下がるし、建築を通して社会と繋がる幅を大きくしていくことができます。今回のコンペは、実際のまちでリアルな状況と向き合って行われるので、これから社会に出て建築の仕事をしていくみなさんにとって、社会実習のよい機会となるのではないでしょうか。どんな人がどんな理由で地域にやってきて、どう地域と向き合い、どんな風に幸せに暮らしていくのか。そのためにどんな賃貸住宅があったらよいか、深掘りしてイメージしてほしいです。今回は具体的な敷地が設定されているので、リサーチの手法や、場所性を設計に落とし込んでいくプロセスにも個性を発揮してほしいです。
私は今回の敷地となっている福島県双葉町という場所を「被災地」という観点からだけで深堀して捉えることはアイデアの幅を狭めてしまうのではないかと思っています。この数年の脅威となったコロナで多くの犠牲や打撃があった反面、私たちの働き方や暮らし方、新たな経済圏は未来に向けて前進しています。被災地においても同じことが言えるはずですし、場所が抱える問題は被災地特有とばかりは言えないと思うからです。状況を冷静に洞察し、新たなまちの転換の起点になるようなアイデアを考えて欲しいです。難しい課題になると思いますが、現地を訪れ、まずはその場所の状況を知ることから始めてみてください。
審査委員のみなさんは独自の提案力や企画力を持って事業や設計を展開されて活躍している方々ばかりです。未来ある皆さんにとって、このコンペが建築設計の枠組みを超えた能力を鍛える機会となり、「こんな暮らしができる未来は幸せだな」と思えるアイデアをたくさん拝見できたら嬉しいです。


瀬川翠

審査委員 瀬川翠氏


竹内 啓
大東建託 代表取締役社長

まちへ出る、新たな取り組みを福島県双葉町から

今年も引き続き、大東建託賃貸住宅コンペを開催させていただきます。第11回から15回の開催においては、今まで課題としてきた賃貸住宅の「仕組みと空間」への提案を、より具体的にリアリティを持ったものとしていくことを目指し、まちへの実装を踏まえたコンペとします。机上の議論にとどまることなく、私たちが社会へ出てまちと寄り添う。そんな思いを込め、「賃貸住宅コンペ まちへ出る」この挑戦的なテーマにこれから5年間取り組みます。
初めての開催地域として、福島県双葉町にご協力をいただけることになりました。東日本大震災で甚大な被害を受け、被災地の中でも最後に避難指示が解除された地域です。
東日本大震災の時、私たち大東建託は被災地に物資をいち早く届けるべく、各地の社員が立ち上がり連携して行動しました。さまざまなインフラが切断されていた中、みんなで知恵を絞って現地へ向かったことを思い出します。そして、その時の経験から賃貸住宅にできる防災対応を考えるべく生まれたのが、防災と暮らし研究室「ぼ・く・ラボ」の取組みです。賃貸住宅だからこそできる防災があると感じ、エリアネットワークを構築し、人や地域を“つなぐ”基盤づくりを進めています。
震災時の学びや気付きから賃貸住宅における役割に向き合う中、今回双葉町において賃貸住宅コンペを開催させていただく機会をいただけたことは、私たちにとっても大きな機会だと考えています。昨年2022年8月に避難指示が解除され、まちはいままさにこれからのあり方を模索されています。このコンペを通じてまちの状況をぜひみなさんに知っていただき、これからのまちの未来と共に賃貸住宅がどんな役割を果たすことができるのかを一緒に考えていただきたいです。
既成の賃貸住宅のあり方に捉われず、このコンペが追求してきた新たな賃貸住宅の仕組みをより追求し、双葉町の未来をみなさんのアイデア力で切り開いてください。
今後コンペの情報発信の中で、双葉町のことをより多くのみなさんと共有し、このまちについて話ができる場をつくっていきます。まちの風景をつくるさまざまなご提案の応募をお待ちしています。


竹内啓

審査委員 竹内啓氏