2026.08.01 第14回大東建託賃貸住宅コンペ第14回|審査委員コメント
審査委員長コメント
重松 象平
OMA NY 代表/九州大学BeCAT センター長
富山県高岡市に僕は行ったことがありませんが、敷地に設定されている場所の風景を拝見すると、日本全国の地方都市郊外に見られる景色が広がり、コンテキストを見い出すのがとても難しい場所だと感じました。
だからこそ逆にそこで建築をつくるにはプログラムの重要性が大きくなる。そのことに改めて向き合う機会になると思います。この場所に単に賃貸住宅をつくるだけでは、何のインパクトも説得力も持ち得ないでしょう。
そこに何を作って、どう住民を巻き込んで、どういう地域の未来、新たな日常を描いていくのか、そこへの想像力がより試されるのが今回のコンペになると思います。
僕も何のコンテキストもない場所で建築をつくる機会がありますが、どんなに何もないように見えても、フィードワークやリサーチを行ってみると、必ずその場所の特性みたいなものが見えてきます。
気候・風土・社会課題・歴史・日々の暮らし方等々、できるだけ多視点から俯瞰して、そこに建つ意味を建築が示し、それによって地域の未来を想像できるプロジェクトであることを期待しています。
今回大東建託が計画中の拠点の近接地であることも一つのコンテキストです。拠点の機能はコミュニティ創成とのことですが、たとえば介護とコミュニティ形成のネットワークができます、今回の敷地と拠点とその全体が一つの拠点だと言えるぐらいの仕組みがあって、かつそれがどう展開していけるのか、より地域を巻き込んだ提案やそのプロセスが見えてこないと説得力を持ち得ないのではないでしょうか。
なので、ひとつの地域拠点を考える場でありながら、これからの日本の地方地域の課題を解決するヒント、ロールモデルとなるような、そんな広い視点を持った提案に出会いたいなと思います。
審査委員コメント
横川 正紀
ウェルカムグループ 代表
今回の敷地が設定された富山県高岡市エリアには、日本全国の地方地域を象徴する風景が広がっています。この場所が抱えている固有の課題を抽出して解決することも大切ですが、こういった場所においては、日本を俯瞰して見るような視点を意識してほしいです。新しい賃貸住宅の提案をすることで、地域が抱えている課題を包括的に解決してしまうような、そんな逆視点から住みたいと思える新たなあり方を考えてもらえると嬉しいです。まずは課題を抽出するために地域をリサーチするところから始まると思いますが、どのような問題意識を持ってリサーチするかで提案の幅が左右されるので、視野が狭くならないように気をつけてください。敷地を起点にどこまでの地域を射程としていくのか、実際の土地、距離の射程もありますが、コンセプトターゲットの射程をどう設定するかで、見えてくることが違ってくると思います。
それから、人を呼ぶ、住みたいと思ってもらえるコンテンツをどう設定し、それがどのような魅力的な建築空間として建ち示せるかももちろん重要です。地域を捉えた時にどんなコンテンツがあるとまちが持続する幸せを獲得できるのか。課題を解決すること以上に、住まう喜びの創出を意識してほしいです。
先日、能登の復興イベントに参加していたのですが、震災後に急速に失われている能登の食文化を地域の料理人と県外の料理人が現代料理へと発展させ未来に繋げるという取り組みで、地域の価値を第三者との出会いによって見つけ出す行為そのものが地域を変えていく力に繋がる、そんなことが意図されていました。今回は大東建託が計画中の施設と近接する敷地で新たな賃貸住宅の姿が求められるので、大東建託がまずは地域にひとつ楔を打ってくれている状況です。次の第三者となる皆さんの発見から、さらに地域の価値を高める計画を考えてください。

林 厚見
スピーク共同代表
富山県高岡市は僕にとってちょっと悔しい都市です。鋳物や銅器の産地として、木工や漆器など工芸の集積地として、職人の世界や歴史的資産が残る珍しい地方都市として、非常にユニークな都市であるにもかかわらず、観光的パワーや産業的ビジョン、生活地としての魅力など、どれにおいても可能性が活かされきっていないように感じるからです。
江戸時代、加賀藩前田家は職人が工芸品や装飾品を製作することに多大な支援を行い、地域の力とアイデンティティをつくりあげました。そこから様々な技術や美学が育まれてきましたが、いまそれらが「現代のあり方、持続発展する道筋」を見出しきれずにいる状況があります。
福井県鯖江市(日本に流通するメガネの9割以上を生産)や新潟県燕三条(刃物、金物、洋食器などにおける技術力とデザイン性が世界中から評価)などは、海外のニーズにも合う体制やサプライチェーンを築き、それが人材を引き込むという循環をつくりあげています。
高岡は、今こそ新しいカタチを必要としています。ものづくり文化という下地は、まちを変えていく可能性に必ず繋がります。そして暮らしのあり方も、新たなかたちが見えてくれば、まちの魅力と力を生み出すでしょう。そんな思いで僕らの会社としても高岡市のエリアリノベーションに関わっています。
今回の提案敷地は、大東建託が実際に行っている拠点づくりに近接しています。地方における(賃貸)住宅は、地域の中で様々な場所や人、あるいは産業や観光との関係をどうデザインできるかが重要になります。僕自身は最近、住宅という言葉の定義を拡張した複合的な意味を持つ「コレクティブ拠点」とはどういうものかを考えています。エリアの価値に波及する新たな住処のあり方を皆さんと考え、発明していけたらと思います。

瀬川 翠
Studio Tokyo West 代表
富山県高岡市は、2018年に行われた実践型まちづくり「リノベーションスクール」のユニットマスターとして訪れたことがあります。リノベーションスクールは実在する遊休不動産を題材に、地域の課題解決とエリア再生につながる事業計画を短期間で作成し、物件オーナーや市民へ公開プレゼンを行うもので、まちを歩き、住まいを拝見して住人からお話を伺うなどのリサーチにも参加しました。
高岡は加賀藩政時代を起源とする鋳物製造の伝統産業が暮らしの延長線上にあり、仏具や風鈴など地場でつくられたものが生活を彩り、銅製のシンクや生活用品は直しながら使われていて、文化とリンクした生活の営みが印象的でした。
生活と密接な関係を築いた文化は簡単には廃れないと強く感じたのを覚えています。 観光資源としてのプロダクトではなく、長い歴史の中で培われた技術が日本の伝統として認められている、というものづくりへの誇りがある一方で、人びとは新しいことに向き合うことには慎重で、新しいことを定着させるには継続的な魅力づくりが必須です。
今回のコンペは、大東建託が計画している地域貢献を目指した拠点施設の近接地で提案が求められます。これからの賃貸住宅は、単に借り暮らしをするだけではなく、小さな公共性を運営する事業に組み込まれた場であると良いのではないかと思っているので、地域性やここだけの課題を解くというよりは、より大きな視点で賃貸住宅の新たなあり方を考えることができる機会になるのではないでしょうか。 そのためにはやはり、単に建築を素敵につくれば良いわけではなく、近くの施設との関係性や賃貸住宅自体の仕組みなど、さまざまな可能性を想像し、取り組んでいただきたいです。

竹内 啓
大東建託 代表取締役 社長執行役員 CEO
私は富山県砺波市の出身で、東京へ出るまでの約20年間を富山で過ごしました。高岡市は砺波から電車で30分ほどの場所にあり、
私にとっては華やかで活気に満ちたまちという印象があります。プロ野球の試合や有名アーティストのコンサートが開催され、多くの人が集まる県西部の中心地でした。
高岡は、万葉歌人・大伴家持ゆかりの地であり、前田利長による高岡城築城を契機に発展した歴史あるまちです。金屋町に代表される鋳物産業をはじめ、ものづくりや文化が息づき、長い時間をかけて独自の魅力を育んできました。
一方で、近年は人口減少や高齢化が進み、生活や商業の拠点が分散するなかで、誰もが地域の中で安心して暮らし続けられる環境をどのように実現していくかが、高岡市に限らず全国の地方都市に共通する課題となっています。
こうした状況に対し、大東建託では現在、高岡市でまちづくり拠点の整備を進めています。高齢になっても住み慣れた地域で暮らし続けられ、世代や立場を超えた交流が生まれる場所を目指した取り組みです。今回のコンペテーマである「境界を解く」には、住宅とまち、
世代と世代、福祉と日常生活など、さまざまな境界を越えながら新たな暮らしの可能性を探りたいという私たちの思いも込められています。
計画地は、その拠点の近接地です。人々が支え合いながら暮らし、必要なケアや交流に自然につながる生活圏をどのように実現できる
のか。そのためには建築だけでなく、仕組みやコミュニティの視点も欠かせません。皆さんならではの自由で創造的な提案を通じて、
地方地域の新たな暮らしのモデルを共に考えられることを楽しみにしています。








