2025.08.08 第13回大東建託賃貸住宅コンペメンター建築家からのメッセージ|四ヶ所高志

福岡大学助教 メンター建築家
福岡の魅力と気質について思うこと
現在の福岡の都市部はコンパクトで利便性も高いのですが、九州はひとつの島国のようでもあり、中心から少し外れるとすぐに豊かな自然環境に触れることができ、そこでは一次産業の営みが盛んです。たとえば僕が幼少期を過ごしたうきは市のあたりは農作物の生産が豊かで、九州の「フルーツ王国」といわれるほど果物が有名です。海産物は下関から佐賀・長崎にかけての豊かな漁場から、畜産物は鹿児島や宮崎といった近県から集まってきます。九州の自然資源のネットワークが、都市部の高い食文化をつくり出している要因でもあります。九州の豊かな自然資源が集約し、またそれらにアクセスしやすい福岡は、住み心地、地方移住先でも上位に位置していますが、住まいのあり方としての「持ち家と賃貸」の比率を見てみると、大体半々ぐらい。短絡しすぎかもしれませんが、長く定住する可能性が高い人たちは半数程度で、もう半数の人たちは常に出入りをしているといえるかもしれません。都市部は流入出する人が多い方がまちを変える力が高くなると思いますが、その際に彼らの住まいを支えるのが賃貸住宅ということになります。そうした意味で、今回、福岡においての賃貸住宅を考えることは面白い試みだと思います。福岡県内だけでなく、九州他県や、東京、あるいはアジアまでも含み込んだネットワークのなかで福岡を捉え、住まい方を考えてみるのも面白そうです。
福岡市の中心部に関しては、現在も天神ビックバンが進行しているように、都市開発にポジティブです。福岡には、古代から続く大陸との交易にはじまり、近代の石炭・製鉄産業の発展など、さまざまな歴史が積み重なってきたはずですが、それらが重層した風景というものには、ほとんど関心が寄せられていないようにも見えます。大陸文化と交流があったからなのか、新鮮なものをどんどん取り入れていきたい気質があり、古いものを捨て去ることに躊躇がないようにも見えます。ただ文化に関心がないかというとそういうわけでもなく、博多祇園山笠などの祭り事や、屋台がある風景などはみなさん誇りに思って大切にしています。都市基盤のような基層部分の文化よりも、もう少し生活に寄り添ったソフトな部分、文化の表層部分の方に関心が強いのでしょう。それがある種の福岡らしさといえるのかもしれません。都市開発のダイナミズムに着目するのもひとつの視点ですし、もう少し基層にある文化を掘り起こしてみるというのも大事な視点になるかもしれません。
大東建託賃貸住宅コンペへの興味
アイデアコンペというものにあまりリアリティが持てず、学生時代はほとんど関心がありませんでした。ただ今回のコンペは、地域に入って課題を発掘していく枠組みが設定されており、その部分に興味を持ったのでメンター建築家の依頼をお受けしました。
幼少期は、埼玉の郊外で借上社宅、つまり賃貸住宅で暮らしていました。そういった時間が長かったせいか、建築を学び始めてからも集合住宅の課題に取り組むことは好きでした。東京に居た時は、建築が生活自体も提案できるような面白い集合住宅に出会うことが多々あり、自分もいつか住んでみたい、設計してみたいと思っていたのですが、10年前に福岡に来てからは、挑戦的で魅力的な集合住宅に出会うことがなくなってしまいました。
東京に比べると福岡の地価や物価は低く、それが住みやすさにはつながってはいますが、一方で、建築家に依頼して建てるいわゆるデザイナーズマンションは、なかなか投資回収が難しい。家賃で建設費用を回収するには時間がかかるため、バブル期以降の福岡には、ユニークな集合住宅はほとんど見られません。建築が提案するチャレンジングな住まい方が実現しにくい状況であることは確かですが、今回はコンペという枠組みで自由な発想を試すことができるので、リアリティは持たせつつも福岡での新たな賃貸住宅のありようを僕自身も探ってみたいです。
メンター建築家として、みなさんへ
今回、こういったコンペを九州の地で開催していただくことに対して、九州エリアの学生にとっては特に貴重な機会になると思います。都市部の建築文化の発展は、経済活動の活力とリンクするので、どうしても大都市圏の東京、大阪エリアが注目されがちですが、たとえば学生の卒業設計展の先駆けは、実は、福岡で1995年から始まった「福岡デザインレビュー」です。また、 2016年の熊本地震をきっかけに組織した建築系学生ボランティア「KASEIプロジェクト」を通じて、大学間の交流が生まれ、九州において学生同士の連携と競争意識もより高まってきています。九州にもアイデアを競い合う土壌はあるので、ユニークな提案が出てくることを期待しています。もちろん、今回のコンペを通して、東京や他の地域のみなさんが福岡をどのように捉えてくれるのか、そういった視点を九州にいる自分たちが知ることができる機会であることも楽しみにしています。
メンターとしては、福岡でなかなか試みることができないチャレンジングな住まい方、賃貸住宅のあり方について、応募者のみなさんと一緒に考えてみたいです。福岡は、今はビッグバンなど中心部の開発が進んでおり、他県からの人口流入も多い状況ですが、2040年ごろには人口増加のピークがくると予測されています。そういった縮退を前提にした上での未来を考えておくことも重要です。現在進行形で開発が進んでいる代謝の高い地方都市に対して、より代謝を高めていこうとするのか、維持していこうとするのか、それとも代謝を抑制して今とはまた違うコンパクトを目指していくのかなど、時間軸を想定した賃貸住宅のあり方などもぜひ考えてみてほしいところです。







