2025.08.08 第13回大東建託賃貸住宅コンペメンター建築家からのメッセージ|宮原真美子

佐賀大学准教授 メンター建築家
移住者の苦労と住まい方へのチャレンジ
私は、日本女子大学住居学科で建築を学びました。在学中、小谷部育子先生の授業で、共同の住まいのかたちをデザインし空間化する「コレクティブハウジング」の考え方に触れ、住まいや暮らしの設計においては、空間だけでなく運営を含めて構想することの重要性を学びました。この賃貸住宅コンペの趣旨を聞いたとき、空間と仕組みの両方を提案に含めるという点に、学生時代の学びが10年、15年の時を経て社会の中で現実の課題として捉えられていることに嬉しさを感じました。そして今、社会はより多様な賃貸の住まいのありようを必要としていることを、確信を持って実感しています。
現在私は佐賀大学で教鞭をとっています。専門は設計ではなく建築計画学、とくに住宅計画です。多世代や多文化共生といった視点から“住まい方”を研究してきました。賃貸住宅は都市でも地方でも同じような建ち方をしていますが、住まい方の空間構成や運営、資金の回し方が多様化する中で、都市部には都市部なりの、郊外には郊外なりの地域コミュニティと接続する賃貸住宅に興味を持っています。というのも、2017年に佐賀大学に着任し、移住するかたちで佐賀市内での生活を始めましたが、知人もおらず、地域との関わりもなく、人とのつながりを得ることが難しく、暮らしにくさを感じて福岡市へ移りました。現在は、大学の演習活動を通して伝建地区の有田内山(佐賀県西松浦郡有田町)という土地に出会い、築90年近い古民家を購入し、何か新しい試みに挑戦したいと思い、小さなコモン空間を併設したシェアハウスとして自ら運営を始めました。小さな地域に移住するには覚悟がいりますが、実践を通して得られる経験値を、メンターとしてみなさんと共有できればと思っています。
九州の賃貸住宅の現状を知ってほしい
佐賀に移る際、市内で賃貸住宅を探すのにとても苦労しました。学生向けの20〜25 m2 ・4〜5万円程度の物件は豊富にありますし、家族向けの80〜90 m2 の住宅もありますが、働く単身者が快適に暮らせる50 m2 前後の物件はほとんど見当たりませんでした。そのため、借りていた集合住宅や周辺には、30代後半から40代の単身者の居住は極端に少なく、ファミリー層が中心でした。移住者でなければ自然と地域に溶け込める部分もあるのでしょうが、私は環境が合わず、福岡へと生活の拠点を移しました。福岡でも見知らぬ土地で友人をつくるのは簡単ではありませんでしたが、都市は単身者の暮らしを受け入れてくれる懐の深さがありました。地方都市では、あらゆる施設がファミリー層向けに設定されており居心地の悪さを感じていましたが、都市では商業施設や文化的な場所、生活圏における多様性があり、単身者にも選択肢が多く住みやすい環境でした。
今回の賃貸住宅コンペに向けて伝えておきたいのが、有田での暮らしが佐賀や福岡とは大きく異なっていたことです。有田は人口に対してUターンも含み移住者の割合が高く、移住者同士のネットワークもあります。なぜ有田は移住者を惹きつけるのか。それは、窯業のまちとして培われてきた、クリエイティブで文化的な土壌があるからだと思っています。国内外からデザイナーやアーティストが、アーティスト・イン・レジデンスなどの機会を通じて滞在し、再び訪れる関係性が育まれています。私の住まいも、シェアハウスでありながら宿泊機能を持ち、そうした人びとを迎え入れる空間と運営の仕組みを取り入れるように設計しています。有田では、古くて老朽化した物件が多く、インフラ整備が不十分な場合が珍しくありません。水洗トイレがないなど、移住者にとっては高いハードルとなる場合もあります。自然環境が豊かな場所で素敵な賃貸住宅をつくる計画があっても、上下水道が未整備であるといった実情を見落としてしまっては、絵に描いた餅になりかねません。リアルな地域の課題をしっかりと捉える視点を、ぜひ持っていただければと思います。
メンター建築家として、みなさんへ
私は関東から移住した立場でもあるため実感するのですが、九州、とりわけ福岡は、多様な風景とライフスタイルが隣接する魅力的な地域です。福岡市内から車で30分も走れば中山間地域に辿り着き、海も山も身近にあります。さらに1時間あれば、佐賀の鳥栖や唐津といった地方都市にも接続できます。福岡は、東京のような都市の風景が延々と続く大都市像とは異なり、地理的・文化的に多様なエリアを包摂して成立している都市です。選択肢が豊富にあるという点で、非常にポテンシャルの高い場所だと考えています。
今回のコンペに取り組むにあたり、福岡に住んでいる方は、その地に根ざした文化を独自の視点で捉え、住まいと地域の繋がり方を考えていただきたいと思います。一方で、関東や他の地域にお住まいの方は、ぜひ「移住者になったつもり」で、どこに住みたいか、どのような住まい方が移住後の暮らしを楽しく豊かにできるのか、想像しながら取り組んでいただけたら嬉しいです。また、住まいの空間だけでなく、その場所での時間の過ごし方や人間関係の構築についても思いを巡らせていただければと思います。移住後、いずれは持ち家を取得するとしても、多くの場合、最初の1〜2年は賃貸住宅での生活となります。その期間に地域と良好な関係を築けるかどうかが、定住への鍵になります。賃貸住宅は単に一時的な住まいではなく、地域に入るための「入口」として、コミュニティづくりの重要な場になり得るのです。みなさんがどのような賃貸住宅を描き、どのようにそこでの生活や経済性を成立させていくのか。私自身の暮らしにも新しい視点をもたらしてくれるような提案に出会えることを楽しみにしています。メンターとして、共に学びながら、新しい住まいのあり方を模索していけたらと思っています。







