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2024.08.09 第12回大東建託賃貸住宅コンペ第12回|京都LIBRARY|水口貴之

水口ポートレート

水口貴之 (みなくち・たかゆき)

京都R不動産/株式会社51ActionR&D 代表
1982年京都府生まれ。
同志社大学を卒業後、東京での広告代理店・株式会社ディー・エヌ・エーにて営業・アライアンス業務を担当。祖父の家が築数百年の茅葺屋根の古民家だったことから、趣きのある物件を住みつなげるようにしたいと2016年に不動産事業を行う51ActionR&Dを設立。その後、2017年京都R不動産をオープンする。

人と人との距離感が近い、空気を読み合う生活圏

水口さんと京都という場所の関係性について教えてください

僕はもともと京都の出身です。大学まで京都で生活し、その後東京で就職をして一般企業で10年働きました。東京で10年仕事をしたら京都に戻ると決めていたので、32歳の時独立して京都で仕事を始めました。
東京で働いたのはスタートアップの会社で、数年働き独立する人が多かったため、僕も独立することは意識しながら仕事をしていました。京都に戻ってどんな仕事をしていくかを考えていた時、実家の住居や代々引き継がれている古民家をどうしたらよいかという自分自身の問題との重なる領域で仕事ができたらと漠然考えるようになりました。そして何のツテもないまま、たまたま東京R不動産へと飛び込んだことをきっかけに林厚見さんと出会い、京都R不動産を立ち上げることになったのです。僕は建築や不動産に関しては素人で、広告業界からIT企業に進んでその後独立した人間なので、不動産事業を行うための資格、宅地建物取引士の資格などは独立してから取得しました。

京都に戻ってからはどんな活動をされていますか

京都R不動産をやっていくことだけは決めて独立したので、できるだけ趣のある中古物件を集めて、それらを活用する提案を考えながら、建物の再活用を進めてきました。今は自分の会社で建築やシェアハウス、ホテルの運営も行っていますが、これらもシェアハウスやホテルがやりたかったというよりは建物との出会いがあり、その活用を考えた結果です。
趣ある建物との出会いをどうつくれるのか、そこに京都ならではの地域文化に対する理解が必要になります。一般的に不動産業者が行う集客(ポスティングやレターの発送といった手法)方法は絶対にしないでおこうと思っていました。
不動産所有者の思いに応えていける建物の活用を行っているという発信を自身で行い自分たちの事業を自分達でPRして、それに共感いただく建物所有者からご連絡をいただいています。

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RC HOTEL 京都八坂

自分の事務所についても、できるだけ生きたまち、変化のあるまちに構えたいと思いました。R不動産は店舗を構えて人に来ていただくスタイルではないので、場所に捉われず仕事ができます。そこで選んだのが京都の丹波口・梅小路エリアです。東京でいうと築地のような場所で、町家というより鉄骨の大きな建物、工場が多く建ち、市場関係者の方々が多く出入りしています。そこのエリアに昔の旧市街の花街もあり、梅小路公園という東京で言うと代々木公園のような大きな公園もあります。実は僕が京都に戻った頃にはなかった公園ですが、JRの新しい駅ができる話が持ち上がり、公園ができました。そういった変化のある場所に面白さを感じて拠点をこの場所に決め、これから少しずつこのまちの面白さの中で自分にできることを粛々とやっていきたいと思っています。

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梅小路エリア(左)| 京都R不動産オフィス(右)

 

京都のまちの魅力、人の生活についてどのように感じていらっしゃいますか

千年以上都が存在し続け、さらにその当時にできたまちの構造が戦争の空襲を受けることなく残り続けている。世界中を見ても類を見ないまちだと思います。長い歴史の中でつくられてきたあらゆる状況がごちゃ混ぜになって存在している小さな生活圏。京都に住んでいて、かつ京都に働く場所がある人にとって、1時間とか1時間半かけての通勤はあり得ません。京都市という場所に限定して考えると、皆さんが考えるよりずっと小さなエリアで形成されていて、東京に置き換えると山手線の内側ぐらいの大きさしかないんです。車を使えば端から端まで30分で行けるエリアに150万の人が住んでいる。まちのどこへ行くのも近い。つまり、どこに住んだとしても同じような環境を得ることができるのが京都市の特徴でもあると思います。山が近い、自然が近い中で成熟した都市に住めるのが京都の魅力だと僕は思います。

京都のまちの魅力は、歴史あるまちを住みこなしてきた地域社会、その文化にも支えられていると感じます。
よく京都の人は閉鎖的で内向的だと言われます。小さなまちの中に人がかなり近い距離感で生活をしているまちでは、その方が生きやすいという生活の知恵が、外から見ればそういう風に受け取られているだけだと思います。例えば京都では1階でお店を営んで2階に居住する職住一体の生活の場が多くあり、それが通り沿いに連なってまち並みができています。壁一枚を挟んでお隣さんと隣り合う。商売の状況、家族の状況、それらがわかり過ぎてしまうと日々の生活に軋轢が生じることがわかっているので、はっきりとした物の言い方は避けていく。そういう生活の意識が長い時間の中で育まれ続けたのです。それは良い関係性を保って生活するための知恵です。
あと、東京のような大都市は働く場所と住む場所が別なので、働くところと住むところで自分のキャラクターはきっぱり分けられるのですが、職住が常に混ざっている生活においては、公私を曖昧にせざるを得ない。京都だけでなく、金沢など長い歴史を持つ旧市街が残っているまちの人びとははっきりと物を言わないという処世術を持ち、そうすることで近い距離での集団生活を上手にやりくりしている。物事をはっきりと言わない文化はそうして育ったのではないかと思います。

東京と京都の違いについて

京都ではスピードが優先されません。僕が東京のスタートアップ企業で働いていた時は、とにかく人よりも早く何かをすることが大切だと思って仕事をしていましたが、京都でそんな仕事の仕方をすると笑われる感じです。京都では、何よりも粛々と自分のやりたいことを進めているかどうか、それが何よりも大切にされています。
急いでいると、余裕がないのね、可哀想にと思われて人として信頼されなくなってしまう。東京で仕事をしていた自分にとって最初の頃の京都は異国の地に来たようでした。
京都では、僕たちのように独立して仕事をしている人間は、さまざまな世代の人と交流していくことになります。東京で働いている時は同世代とのコミュニケーションや繋がりが多かったのですが、京都では老若男女、幅広い世代との付き合いが自然と増えてきます。町内会の集まりだったり、子どもたちのイベントだったり、とにかくさまざまな方たちとのコミュニケーションをどう取るのか、地域コミュニティとして連綿と息づいてきたさまざまな集まりや組織に触れる機会が多いです。代々受け継がれている関係性自体が京都のまちを形成しているという意識は常に持っています。
僕の体験としてお話すると、今経営しているホテルが建っているエリアは昔は家がたくさんある下町でしたが、今は周辺に観光スポットがたくさんある立地の良さからお店ばかりになりました。そのため、住民だけでは町内会を維持できなくなり、今では住民だけでなくお店を営む人たちも協力して組織運営をしています。で、僕はその町内会長をやっており、その町内は祇園祭の氏子町なので、提灯を集めたり、お札を配ったり、そういったまちがずっと昔から続けてきた地域活動をを粛々と担っていく。そこでやっと周囲からの信頼を得ることができる。そんな感じがしています。

こんな賃貸住宅があったら

日本のどこにでもある画一的なものではなく、京都にしかない賃貸住宅を考えてほしいと思います。経済合理性を無視しても、これだったら住んでみたいと思わせる魅力を皆さんには見つけ出してもらいたいです。京都にはまだまだ魅力的な既存建物が残っています。京都ならではのまち並みを残していくためには、そういった建物の活用法に可能性もあると思います。
先ほどお話をした、京都ならではの人と人との近い距離感。空気を読み合いながらの生活圏のありようは京都だからということではなく、立地や敷地のあり方からそうなっているだけだと思います。なので東京でも同じような生活感を持って暮らしが成り立っている場所はあるのではないでしょうか。
アイデアを出す皆さん独自の視点から、長い時間変わらずまちの歴史が受け継がれてきた京都における新たな生活の場、住まいを提案していただけたらと思います。そして、京都に居る自分たちには気がつけないこと、外の人たちから見た京都の価値を教えてもらうことができたら嬉しいですし、それを知ることができる賃貸住宅のありように期待しています。