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2025.08.08 第13回大東建託賃貸住宅コンペメンター建築家からのメッセージ|佐々木慧

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axonometric メンター建築家

大東建託賃貸住宅コンペについて

大東建託賃貸住宅コンペは、僕が大学院にいる頃に始まったと記憶しています。当時は建築のアイデアコンペが多い中で、このコンペは徐々に事業性も求めるようになり、どのような賃貸住宅の仕組みが空間化された建築であるかを想像できないと提案を出すことが難しい、実社会のリアルな課題と向き合うコンペであると思っていました。賃貸住宅に限らず、建築の事業性を考えることは、建築に対する当事者性が高まり、今の社会の潮流も理解しながら空間の設計を行うということです。大学の建築教育では主に建築空間をつくることを学びますが、実際には建築は企画から始まり仕組みや運営が入らないと継続していくことができないので、社会に出てみると事業性を考えることは建築家にとって必要なことだと気付きます。でも一方で実際に実務をやってみると、事業性の枠組みがある程度決まった段階で設計の依頼がくることが多いという現実に直面し、なかなか自分で仕組みと空間をセットで考えられる機会はありません。そういう意味で、このコンペは自由な発想で事業性から建築を考えられる良い機会だと思います。
それから、賃貸住宅のあり方自体を考えることができるのもとても面白い取り組みではないでしょうか。分譲住宅に比べて賃貸住宅は社会との関係が密接で都市的だと思うからです。時間のサイクルもコンパクトだし、時間をシェアする考え方で捉えることもできます。
ひとつの建築を考えることがまちそのものを考えることにもつながっていくところに面白さや価値があります。建築の空間をどう設計するかによって、「賃貸」という仕組みそのものが変えられるのではないでしょうか。

福岡というまちの特殊性

僕は長崎県出身で、九州大学に在籍していた4年間福岡にいました。その後は東京の大学院へ行って東京で就職し、2019年に福岡を拠点にして活動を始めました。福岡のまちの変化を実感することはあまりないのですが、外から見た福岡の評価がだいぶ変わったなというのはここ数年で感じます。たとえば僕が小さい頃に「糸島」という地名は聞いたこともなかったですが、今は「糸島」といえば福岡を代表する別荘地というイメージになっていて有名な場所になっています。これは福岡県自体の知名度やブランディングが上がっていることの現れのようにも思うのですが、先日参加した会議では、若者の割合が福岡市が日本で一番高いというデータが紹介されていました。確かに福岡市は若いファミリー世代への支援が手厚かったり、若い人に対する補助金やスタートアップに挑戦する自営業の人に対しての補助金が手厚く、支援体制が充実しています。外から人が転入しやすい環境が整っていることも福岡の人気を押し上げている要因だと思います。実際、僕の事務所も8人いるスタッフに福岡出身の人はいないのですが、福岡に来て働くことを面白がって来てくれている人がほとんどです。これが九州の別の場所だったら少し違う気がするんです。暮らしている分にはご飯は美味しいし、移動するにも博多駅と福岡空港が近いので東京や他の場所に移動するのもほとんど不自由しません。日帰りができるという意味で東京との距離を感じないのも大きな魅力ではないでしょうか。
福岡は中心部の都市開発が進む一方で、屋台が集まる博多・中洲エリアは福岡市としても大切にされている文化エリアになっており、博多祇園山笠の開催が近くなる時期は町にお尻を出した人たちが普通に闊歩します。笑 驚くのは、祭りの山車が練り歩くルートがまちの中で決まっていて、街の一部はそれを配慮して計画されたり、屋台を設置する前提で道幅が決まっていたりしているのです。まちにおいて、日常の空間と非日常、テンポラリーなものに対する文化的ヒエラルキーが他の場所とは全然違うなあと思っていて、祝祭空間となることがまちの骨格となり、福岡の魅力をつくっていると感じています。そういう意味では賃貸住宅もテンポラリーな空間であり、ある区切られた時間で貸す場所なので、福岡のまちのあり方と何かしらリンクする新たなプログラムが描けるのではないでしょうか。

メンター建築家として、みなさんへ

今回のコンペでは、福岡というまちの文化があるからこそできる賃貸住宅の提案を楽しみにしています。
例えば福岡市だけ見ても、食文化はもちろんのこと、屋台の文化が残っていたり、博多祇園山笠の山車が練り歩く祝祭文化があるなど、ミクロな視点で見た時に愛すべき継承していきたい事柄がたくさんあります。それは福岡市に限らず、福岡県の地方都市に目を向けると漁業で発展したまち、産業で発展したまちなどさまざまで、都市を支える農業地域や山間部も、突き詰めていくことから出てくるアイデアはいくらでもありそうな気がしています。みなさんがまずはそれぞれに福岡という場所と向き合い、福岡ならではの普遍性をあぶり出してほしいです。
福岡のまちとしての評価が上がっている話は、あくまでブランディング的な部分が功を奏している表層の話な気がしていて、実際には日本社会が直面する生々しい課題も多々存在します。できるだけミクロ視点で客観視していただき、それぞれの場所の状況や魅力などについて、僕自身もこのコンペを通して知ることができたらと思っています。
メンター建築家のお話をいただき、仕事で実務の調整に忙殺される日々ではある中で、僕自身が福岡について客観的に考える機会がなかったなということにも気付かされました。実際に福岡の中心部に住んでいるので、場所としてのリアルな状況はお伝えすることができます。応募者の方と一緒に福岡での新たな賃貸住宅のあり方を考えてみたい。そんな気持ちです。