2025.06.18 第12回大東建託賃貸住宅コンペ第13回|審査委員コメント
審査委員長コメント
重松 象平
OMA NY 代表/九州大学BeCAT センター長
島国である日本において、福岡は国境を感じる県です。本州と九州の結節点であるだけでなく、13世紀初め元の襲来を受けた際につくられた石垣(元寇防塁)が博多湾の海岸約20kmにわたり残っており、大陸と向き合った歴史からも国境を感じます。僕は福岡県出身ですが、中学生だった頃から日常的に日本語、中国語、韓国語の3カ国語表記を目にしていました。国境周辺地域(ボーダーシティ)は、外からの力学がさまざまに働くため競争力が生まれ、文化的なミックスも起こって今までにないものが生まれる可能性が高くなるといわれています。福岡はまさにそんな場所ではないでしょうか。
今回は福岡がさまざまな地域にどう向き合えるのか、反対に皆さんが客観的に福岡をどう見るのかを知れる機会であり、その議論が楽しみでもあります。僕が大学生の頃は時代的にも福岡は東京や大阪、名古屋といった大都市圏を意識していたように思います。でもだんだん福岡らしくいればよいという意識が芽生え、大都市圏へのコンプレックスが薄れていきました。アジア圏、大陸に近いことは自分たちのポテンシャルだと気が付き、独自の文化を伸ばし発展していく方向性へとシフトチェンジが起きました。その方向転換こそ福岡の魅力を強めた要因だと思います。
僕は出身地なのでクリティカルになりがちですが、今とにかくエネルギーを感じることは確かです。まちには外国人や若者が溢れ、経済的に見てもスタートアップを目指す人たちが盛り上がっています。夜も屋台をはじめとした他の場所にはないアクティビティの集合体に人が集まり、商業的な盛り上がりとは異なる食を交えた文化的側面がまちの魅力を支えています。福岡の魅力をどのようにしたら活かせるのか、その多彩なアイデアを期待しています。
今回もうひとつ呼びかけたいのは、デフレを脱却しゼロから何かをつくり上げる勇気を持ってほしいということです。よいところを伸ばしていくための建築のありように挑戦する姿勢、そこへの希望を建築家は社会に示す責任があります。発展只中の福岡に、まちの魅力をさらに伸ばしていく建築のありようをゼロから立ち上げて考えてほしい。ぜひ自分の建築をつくることに挑戦してください。
審査委員コメント
横川 正紀
ウェルカムグループ 代表
福岡は僕にとって縁が深く、10年前に出店したこともありよく訪れています。九州は全土に多様なつくり手がいて日本の中でも独自の文化を持っており、イタリアのような雰囲気を感じる時があります。志の高い生産者が多く、自然に恵まれることによって生まれるよい意味でのゆとりとクリエイティビティの独自性がしっかりと定着しているのです。
東京や大阪といった大都市圏とも違い、大型商圏に向けた請け負いの巨大ファクトリー型ではなく、地域に根差したものづくりが今も行われているのは、海と山、大自然の恩恵を大切にしている証です。僕はそんな九州の地にいつも愛着を感じています。中でも福岡はまちと産地が近いこともあり、食を通じた発信も多いエリアですので、食という文化的側面をどう活かせるか着目してみるのもよいかもしれません。
また九州やアジアの玄関口である福岡は、行政が独自のコンパクトシティを構想していることも影響してか、現在はリトルトーキョー的な都市開発が進んでおり、面白い状況が生まれつつあります。福岡は空港も港(海)も近く、決して大きくはないけれど強い商業圏もあり特別な魅力を持っているエリアです。そして福岡中心部での開発が進む一方、周辺地域(六本松や糸島など)が少しずつ育まれ、一昔前の博多・天神の一極集中の状況から、より個性のあるエリアが魅力をもち始め、移住者やクリエイティビティのある人たちの活動も活発化しています。
変わりゆく福岡市とは違ったかたちで文化を育む福岡県内のその他のエリアがあり、そこと隣接するその他の県が競いながら九州一体としても独自の文化を生み出している気がします。歴史的な文脈や、日本における位置的なことから生まれる可能性、コンパクトでありながら変わりつつある福岡を大きな面で捉えて、土地の魅力をより感じられる新たな賃貸住宅のあり方を考えてみてください。
今年は現地での公開審査会の開催や地域のメンター建築家との伴走、そして伝えることにも向き合うべくベストプレゼン賞が新設されるなど、新たな取り組みも目白押しです。みなさんにお会いできるのを楽しみにしています。

林 厚見
スピーク共同代表/東京R不動産ディレクター
仕事で福岡に出張があるとなんだかワクワクするのは僕だけではない気がします。食べ物は美味しいし、まちとしての快適性も高い。そういったイメージはみなさん共通だと思いますが、僕にとっては福岡で活動している友人がみんな面白い。それがワクワクする最大の要因です。僕が福岡に行くと決まった瞬間から全力で迎えようとする彼らの空気感を感じます。なぜそんな空気感を醸せるのか? それは福岡というまちに自信を持っているからでしょう。そしてその福岡がこの10年、15年でポテンシャルシティとしてさらに魅力的な場所に生まれ変わりつつあります。自分も天神ビッグバンなどの話もまだなかった20年ほど前、福岡地所やリージョンワークスの後藤太一さん達と一緒に福岡のありようについて何度も議論したことを思い出します。福岡という都市は、時間をかけたさまざまな議論や試行錯誤の成果が少しずつ積み重なり、関わる人びとの意気込みとともにその勢いが形になってきたのだと思っています。中心部周辺の大名や今泉といった場所には独自の魅力的なカルチャーが生まれ、さらには糸島が世界的にも注目され、IT領域の人びとのコミュニティも形成されるなど、文化的イノベーションを生み出す人的環境が形成されています。天神・博多駅近くの開発、周辺に生まれている新たな地域の行く末、都市部と離れた地域の余白。これらをどう活かせるのか、さまざまな考え方をみなさんの提案に期待したいです。
十数年前からは、LINEの国内第二拠点ができるなど企業の移転が増え、九州に半導体分野の産業集積が進んだことなども背景に、産業的、国際経済的に福岡の位置付けは明らかに大きなものに変わっています。そもそも九州には台湾や中国といったアジア資本は昔から入っていたので、アジアに近いアイデンティティは持っています。最近は経済発展を背景として、日本全体からアジアとの近さが注目されるようになっています。そういった他のエリアにはない独特な立ち位置も捉えてほしいところです。建築単体や暮らし方の提案だけにとどまらず、福岡ならではの大きな社会的状況とも接続する文脈を伴う賃貸住宅のあり方に出会えることを期待しています。

瀬川 翠
建築家/Studio Tokyo West 代表
福岡はリノベーションまちづくりの活動で2015年頃からよく訪れている場所です。博多・天神といった都市部はコンパクトで、UIターン層や外国人の流入も多くエネルギッシュなまちです。市街地から外側の周辺エリアには糸島や箱崎といった豊かな自然と文化を持った場所があり、中心部と周辺の距離が近いことでさまざまな魅力が共存しています。魅力にいち早く気付いて首都圏で活動する人たちが第二の拠点をつくる動きも活発化していますし、私の友人は糸島でシェアハウスを運営し、「食べ物・仕事・エネルギーを自分たちでつくる」をコンセプトにその場所の魅力を最大限活かした暮らしを展開しています。そこにはスローで丁寧な暮らしの風景があり、共感する移住者も少しずつ増えています。都市と豊かな自然が近いことで人と人との繋がりや地縁が深くなり、ハイブリッドな福岡の楽しさを醸成している。そういった状況は新たな住み方や賃貸住宅のあり方のヒントになるのではないでしょうか。
他に印象に残っている地域は北九州市小倉です。最近では、まちの台所だった旦過市場が大規模な火災に見舞われるという困難もありましたが、人情味にあふれ、新しいチャレンジも得意な商売人気質が息づくまちは福岡市とはまた違ったアイデンティティをもっています。福岡と一言で言っても、都市圏・地方都市・山間部と、多様な顔があります。今回はまちの問題解決にとどまらず、ポジティブに土地の魅力を発見し、その魅力が増す賃貸住宅のあり方をぜひ提案してほしいです。
また今回のコンペでは新たな取り組みとしてベストプレゼン賞が実施されます。プレゼンの本質はアイデアの説明ではなく、提案者の熱量や、他者を巻き込む力そのものだと考えています。私もコンペに参加する機会がありますが、心を込めて丁寧に語られた提案ほど人は共鳴するものです。聞き手の想像力をかき立てる、余白を残して伝えるといった、伝えることへの試行錯誤も楽しんでください。今回の福岡現地開催では、地域の空気を直に感じながら発表することもできます。そういった機会にこそ、さまざまな地域の皆さんに参加をしていただきたいです。

竹内 啓
大東建託 代表取締役社長執行役員CEO CEO
第13回賃貸住宅コンペは福岡県へと赴きます。敷地設定を福岡県全域にすると同時に、今回は公開審査会も福岡・天神(ONE FUKUOKA CONFERENCE HALL)で開催することにしました。また、メンター建築家の方々も新たな顔ぶれとなり、福岡周辺で活躍する若手建築家のみなさんにご協力をいただきます。
今回、第13回の敷地として福岡県を選んだ理由はふたつあります。まず、福岡県は現在、海外からの移住者が多く、国際的な注目が高い地域であること。中規模都市でありながら、天神ビッグバンをはじめとする開発によりまちが変容し、アジア圏との連携をもって東京や大阪とは異なる発展を遂げつつあります。この前向きな雰囲気と活力に満ちた場所で、どのような住まいがまちの魅力を最大限に引き出せるのかを考えたいと思いました。
次に、「都市的な利便性」と「自然の豊かさ」が両立する地理的な背景と、アジアの玄関口としての歴史的背景が融合した生活環境と食文化の魅力があることです。福岡の中心から少し離れると、海や山の風景を30分から1時間程度で味わうことができ、その周辺の豊かな自然がまちの食文化を支えていると感じます。福岡を訪れる際には必ず立ち寄りたくなる食事処や土産店が多く、安くて美味しいという印象を持たれる方も多いのではないでしょうか。他にも、福岡空港が中心部にあることで、国際的なビジネスや観光のハブとしても機能しており、この交通の利便性が、地域経済の活性化や文化交流の促進に大きな役割を果たしています。中規模都市として独自の魅力を持つ福岡で、そのよさをさらに引き出すために賃貸住宅がどのような役割を担えるのか、問題解決の視点も重要ですが、魅力をどう活かすかという眼差しを大切にしながら提案いただけると嬉しいです。私たち自身も、このコンペを通して福岡をより深く理解し、みなさんの提案と向き合いながら考えていきます。
また、提案内容を聞き手にしっかりと届けるところまでをクリエイトしていただきたいという想いから、新たにベストプレゼン賞を設けました。福岡のみなさんとの出会いや、応募者のみなさんと福岡の未来を考える機会を心待ちにしています。








