第10回大東建託賃貸住宅コンペ アイデア提案部門
テーマ 賃貸住宅とSDGs
大東建託賃貸住宅コンペは、今回第10回目の節目を迎えます。2020年初頭に始まった新型コロナウィルスの世界的な拡大から約2年。私たちの生活は行動制限を強いられることでさまざまな影響を受け、新たな価値観と向き合う状況に直面しています。そういった状況下において第9回目のコンペではアフターコロナをテーマとしてさまざまな提案をいただきましたが、第10回目は世界共通の課題と向き合い、2015年に国連で採択されたSDGs目標 (17の目標と169のターゲット)に対して賃貸住宅のこれからをどう考えていくかをテーマとします。
私たちの生活と地球環境という両方の視座に立って独自の問題意識を明確にした上で、解決を図る新たな賃貸住宅のあり方を提案してください。SDGsの目標やターゲットを参照としながら、皆さんそれぞれの「SDGs考」を示していただきたいと思います。あなた自身が見据えた課題の解決が、国を超えた多くの人を笑顔にしていく。そんなストーリーを紡ぐ提案をお待ちしています。
応募プレゼンテーション(A2横)右上部分に、テキストで「あなたのSDGs考」(提案の中で取り組んだテーマについて、300文字程度にまとめる)を必ず記載して下さい。
賞金
- 1位1点250万円
- 2位1点150万円
- 3位1点100万円
- 4位1点50万円
- 5位1点30万円
- 入選5点各10万円
※賞金はすべて税込です。
スケジュール
- 2022年4月1日 (金)応募登録開始
- 2022年9月30日 (金)登録・作品提出締切
- 2022年10月頃1次審査結果発表
- 2022年12月10日 (土)2次審査+表彰式
- 2023年2月1日 (水)最終結果詳細発表
応募要項
応募資格
グループ・個人を問いません。
登録方法
本コンペに参加するためには、事前に当ウェブサイトの登録フォームから登録を行ってください。必要事項を入力し送信すると、e-mailで登録番号が交付されます。この登録番号は応募にあたって必要になりますので、紛失しないよう、記録・保存してください。
・交付後の、登録番号に関するお問い合わせには応じることができません。複数案応募する場合には、作品ごとに登録が必要です。
・応募登録は当ウェブサイト以外からはできません。
・登録後、内容に変更があった場合は再度登録をし直してください。
・携帯のメールアドレスでは登録通知の返信メールを受け取れない場合があります。提出物
A2サイズの出力紙(420mm × 594mm、片面横使い1枚)
PDFデータ(10MB以内)
提案のタイトル/「賃貸」の新たなスキームを示すダイアグラム等/設計意図を表現したものをケント紙あるいはそれに類する厚紙1枚に納めて提出してください。表現方法は自由。立体(突起物や凹凸)、額装、パネル化は不可。裏面は白紙としてください。注意事項
プレゼンテーション右上部分に、テキストで「あなたのSDGs考」(提案のなかで取り組んだテーマについて、300文字程度にまとめる)を必ず記載してください
*13ポイント以上の文字サイズ。それ以外のフォーマットは問いません登録番号の記載
提出用紙の表面右下に35ポイントの文字サイズで登録番号を明記してください。 登録番号以外の応募者を特定できる内容は記載しないでください。
提出先
A2サイズの出力紙
株式会社新建築社「大東建託 賃貸住宅コンペ 係」(必ず明記のこと)
〒100-6017 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング17F
TEL. 03-6205-4382PDFデータ
応募フォームに従いアップロードしてください質疑
課題に対する質疑応答は致しません.規定外の問題は応募者が自由に決定してください.
その他
応募作品は未発表のものに限ります./ 応募作品は返却致しません.必要な場合はあらかじめ複製をしておいてください./ 入賞後の応募者による登録内容の変更は受け付けません./ 同一作品の他設計競技との二重応募はご遠慮ください./ 本コンペ応募作品の著作権は応募者に帰属しますが,応募作品の発表に関する権利は主催者・後援者が保有します./ 入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は,すべての応募者の責任となります. また,そのような場合は主催者の判断により入賞を取り消す場合があります./ 2次審査用の模型は返却いたしません./ 応募者には,本コンペに関する情報発信(動画,写真,コメントなど)に協力いただく可能性があります./本コンペにおいて取得した個人情報は,主催・後援・コーディネーターが共有しますが,本コンペの運営以外に使用いたしません.また,第三者に譲渡や転売はいたしません.
審査員それぞれのSDGs考
千葉 学
千葉学建築計画事務所/東京大学大学院教授
人の喜びをともなう価値の創造と新たな都市計画
SDGsと本質的に向き合うためには,成長することを大前提としてきた戦後社会のあり方,つまり資本主義社会そのものを問い直すべきだと思います.ティム・ジャクソンが『成長なき繁栄──地球生態系内での持続的繁栄のために』(2012,一灯舎)にも書いていますが,これからの時代は成長することが必ずしも繁栄に結び付かない時代になると僕たち自身も感じています.消費のための生産を前提とするのではなく,「所有から循環へ」「希少性から連関へ」「つくる創造性から使う想像性へ」「消費者から当事者へ」といった価値観へのシフトが徐々に顕在化してくるでしょう.建築においても,循環や連関といった意識が希薄なまま,所有や消費を加速させる希少性を前提とした作品の創造がなされてきましたが,これからは,消費者ではなく当事者意識を建築が醸成していくことができるのか,その側面がより強く求められていくと思います.
こういった観点を見据えて,いま僕たちの研究室では小さなモビリティとしての自転車に注目し,バイシクル・アーバニズムについての提案をしています.「東京計画2021」と題し,今年4月からグッゲンハイム美術館ビルバオで展覧会を行う予定です(詳細は動画にて).成長を支えた原動力は,高速/大量に人やものを自由に移動させることにあったわけですが,皮肉なことにコロナウィルス感染症(COVID-19)もあっという間に世界中に広めてしまいました.成長を牽引してきた「移動」,つまりモビリティの価値も問い直す必要があるということです.車を前提に最適化されてきた街を,自転車などの小さな移動,身体的な体験を通じて捉え直してみる.都市を消費や経済の舞台としてだけでなく,自らの身体に取り戻す.その先にどんな街が見えるのか.たとえば,交通量の減っている首都高速道路を敷地に見立て,地上0mから240mへと登る巨大なビルを全長2.8kmにわたってつくり,屋上を自転車好きな人がヒルクライムする.モビリティインフラをリノベーションし,そのビルを小さなモビリティの場として使い倒してみる.このような視点で20世紀的な都市を捉え直すことから成長なき繁栄の未来を描くような試みが,さまざまな切り口でなされていくことが,SDGsの時代に求められていることではないかと思います.
サステイナブルという視点は,とかく技術に依存した解決策に結び付きがちですが,その技術依存の姿勢こそ,20世紀的だとも言えます.私たちの生活様態,その拠り所となる価値観,こうしたことを根本から問い直すような提案を期待したいと思います.
赤松 佳珠子
CAtパートナー/法政大学教授
目標達成を目指すゴールに向けてさまざまな矛盾の解決を
私たちは日頃,SDGsに掲げられている17の目標や169の項目のクリアを目的として建築を設計しているわけではありません.でも実際にプロジェクトについて思考し,議論し,都市や建築,そして人びとのことを考えながら,私たちなりの新たな建築の有り様を示すことは,少なからずSDGsが目指すべきところと同じ方向を向いているのではないかと思っています.ただ一方で,一般的な建築物を今の普及技術で建設している限りは,まだまだきわめて高いCO2の排出や資源の利用など,大きな環境負荷をかけてしまうことも事実です.
世界を牽引する大企業のさまざまな動きを見ていると,SDGsという大きな目標を掲げることでそれぞれが企業努力に繋げていることを認識しつつも,環境負荷をゼロに近づけようとするほどコストが掛かり,違ったところへしわ寄せがいくなど,解決しきれない複雑な側面が多々あり,それらはあまり表面化してこないといった歯がゆさも感じます.環境負荷をかけない技術を導入したくても建設費は掛けられないなど,イニシャルとランニングのコストバランスについても,大変難しい問題が山積しています.このように,現実はまだ多くのせめぎ合いの真っ只中です.SDGsを目標として技術が発達していけば,本当に世の中がよくなっていくのか,自然エネルギーを使えば数値的にはCO2の排出量は減るという理屈は分かるものの,電気自動車にしてもスマホにしても,現代技術は圧倒的にリチウムという自然資源の消費の上に成り立っており,ものすごいスピードで搾取が進んでいるという現実.安易に設置した大規模な太陽光発電パネルに起因した環境破壊や自然災害の発生など,SDGsについては,考える指標としては必要だと思いつつ,私にはいまだ何が正解なのかよくわかりません.ただ,利潤を追求していく資本主義のあり方の破綻はコロナ禍になる前から感じており,もはや消費に頼って経済を成長させていく時代ではなくなっていると実感しています.
建築の世界でも,今までのスクラップアンドビルドの消費経済原理とは違った魅力的なプロジェクトが増えています.建築がハードだけではなく,さまざまな仕組みづくりやコミュニティ形成など,身近な経済圏を構築するひとつのきっかけになることに多くの人が気付き始めているのだと思います.
今回の「賃貸住宅とSDGs」のテーマも,掲げられている目標をクリアすることが目的ではなく,結果としてのSDGsと考えれば可能性は広がるのではないでしょうか.
横川 正紀
ウェルカムグループ 代表
会社の成長ではなく人ややりがいを伸ばす
建築を学び,ハードからつくられるまちづくりやデザインのあり方に問題意識があってコンテンツメイキングにシフトして30年.成長による繁栄の矛盾を感じて,コロナ前の2018年からその先の5年間に出店しないと決めました.業績は悪くなかったのですが,いちばん難しかったのは人財のことでした.世の中が多様化し,生きがいや働きがいある人生の構築にSDGsの根源があると思うのですが,事業規模が大きくなる中で,ただただ人数が増えてその人でなければできないことが減ってきている……とある時気付いたのです.成長を止める勇気は必要でしたが,やってみると逆にみんなが知恵を出し合って価値を拡充していく術を考えるようになり,新たな企画がいくつも生まれました.そのひとつ,コロナ禍で広がったのが「旅するDEAN & DELUCA」というポップアップストア企画です.全国のなかなか人の集まらない地方百貨店の催事売り場に,お店が旅をするようにチームが旅をしながら数週間DEAN & DELUCAを展開して回ります.減っていた催事が新たに産まれるので,百貨店さんも喜ぶ,お客さんも喜ぶ,結果上層階なのでシャワー効果で街も賑わう.さらにこの企画では,応募抽選形式で参加メンバーを決めます.会社は交通費と宿泊と毎日の食事,そして1日の休暇を提供します.その土地の美味しい食事と彼らが体験したい時間に経費を使うことで,結果的にワーケーションのような仕組みとなり,会社も,従業員も,街も,街の事業会社もよしとなり,今では年間20カ所以上を回ることに.そういった三方よしの関係性をつくることで持続可能な活動を考えていくのも,SDGsの大事な観点ではないかと思います.
それからもうひとつ,虎ノ門にできた新しいオフィスビルの中に虎ノ門横丁という場所をつくったのですが,実はここでの僕らの裏テーマはリーシング事業の再定義.お店は出店も退店も責任区分などの関係で必要以上の工事が生まれ,結果ものすごい量のゴミが輩出されます.共通して使用できるデザインを考えることから事業自体のリスクが減らせて人気の小さな個人店が集まる横丁を生み出すことができました.
今回の賃貸住宅コンペにおいて,暮らし方や住まいにおいてSDGsをどう捉えるかにチャレンジすることで,身近な生活の中にある自然との共存や前向きな循環,廃棄物の削減やエネルギー軽減など,空間に止まらないさまざまなアイデアが出てくることを期待しています.既存価値の見方やあり方を変えるだけでSDGsに繋がると思うので,賃貸住宅をみなさんがどのように捉え直すのか,楽しみにしています.
林 厚見
株式会社スピーク共同代表
社会の仕組みをディベロップメントする
僕はこれまで,空間や街の隠れた価値を捉え直したり再編集していくための仕組みづくりや事業に関わってきましたが,振り返ってみるとそれらはすべてSDGsに繋がるものだったと思っています.
過去の日本では,住宅の建設・供給を急いで進めることがSDGsだという時代がありました.そこでもっと工夫が必要だったと今社会が気付いていると思いますが,ともかく時代の状況は変わりました.
18年前に始まった「東京R不動産」は,東京に残る古い物件の潜在価値に着目して使い手とのマッチングをする仕事ですが,テーマのひとつが「壊さなくてよいはずの建物」を残す手立てを思考することです.古い物件でも住み手が現れれば経済価値が宿り,そのまま使うことの合理性が生まれます.また,お金や資源を投入してリノベーションをしなくても「情報を誰にどう届けるか」を変えるだけで解決できる場合もあります.流通を変えれば,価値観や資源循環を持続的なかたちに近づけられるのです.
2015年に始まった「公共R不動産」は,自治体や国が持つ遊休化した公共空間を創造的に民間の使い手にマッチングしていくための仕掛けです.2020年には「公共不動産データベース」を立ち上げ,民間企業と自治体それぞれ数百の会員がいます.これは建物・空間の命を伸ばすと共に,公共財政を健全化し,地域の持続に結び付けていくものでもあります.
「toolbox」は主にリノベーションのための素材・パーツ・什器設備,そして職人サービスなどを開発・製造して住み手に直接届ける仕事ですが,ここでは職人の技や地域資源の重視,そして「使い手・ユーザーが自ら空間づくりに関わること(編集権をユーザーに移動する)」というコンセプトがあります.グレードやステータスといった価値から,自ら関わることで生まれる「愛着価値」へのシフトを進めることが,資源消費のあり方や価値観のあり方を持続可能な世界に近づけることになるのではないかと思っています.
僕はこれから15年くらいの計画で,新しいかたちのディベロッパーをつくっていきたい.「自由ではあるが孤独な」都市をつくってきた反省をふまえ,これまでの単体的・短期的なビジネスではなく,社会全体のあり方を先読みしながら世の共感を武器にして,行政とも連携して長期最適・全体最適を成立させていくソーシャルなディベロプッメント事業です.創造的なアイデアやデザインと,事業の仕組み・戦略を統合して社会課題を解いていく新しい方法論をつくっていきたいと考えています.そのためにも今回のコンペを通して,僕自身も学びたいと思っています.
小林 克満
大東建託株式会社 代表取締役社長
誰ひとり残さない,次の社会へ向けた賃貸住宅の創造を
SDGsは2015年に国連に採択されたことで世界中に広がり,ここ数年で日本においても浸透し始めました.当社は,2020年に環境に対する取り組みを示す「DAITO環境ビジョン2050」を作成,2021年度には大東建託グループの重要課題として7つのマテリアリティを定めSDGsに具体的に取り組むこととしました.私自身,ものを選んだり購入したりする際,今まではデザイン・機能性,価格が安いといった価値観で決めていました.しかしSDGsと向き合うようになり,社会への貢献や環境への優しさといった選択肢の重要性を身をもって感じ,企業としても新たな価値観に向き合って行動していくべきだと考えました.コロナ禍の経験もその思いにさらに拍車をかけたと感じています.また,喫緊の課題である気候危機への対応を進めるため,2040年までに事業活動で使用する電力を再生可能エネルギー100%化(RE100達成)することや,2030年までに事業のエネルギー効率を倍増させる(EP100達成)などの国際的な環境イニシアティブにも参画しました.この再エネと省エネを事業活動の中で実現することと合わせて,私たちが建設する賃貸住宅,木造建築においてのCO2削減も目指していて,木材の循環利用,森林の計画から伐採.建設においてはツーバイフォーの賃貸住宅からCLTの中規模木造建築まで,都市部における木造建築を増やし,それらを最終的に解体・廃棄する際にバイオマスというエネルギー資源に変えることを研究・計画しています.戸建て住宅での展開が主であるZEHやLCCMの取組みを賃貸住宅でも展開できたらと思い実験検証中で,実現するのが楽しみです.仕組みの部分では,『防災』に対する取組み『防災と暮らし研究室「ぼ・く・ラボ」』(www.kentaku.co.jp/bokulab/)で,賃貸住宅が災害時の支援物資の供給や防災ステーションとして役割を担えるよう,場所の可能性を見直し,啓蒙活動も含めた地域貢献のあり方を模索・発信しており,これらはみなSDGsに繋がっていくと思っています.
SDGsの大きなテーマは「誰ひとり取り残さない」.日本各地に約120万戸の賃貸住宅を管理させていただき,200万人を超える皆様に住まいを提供する私たちにとって,重要な課題だと感じています.たとえば「地域で長く住まう」のテーマと共に,過疎化が進む地域での暮らしの継続や生活インフラの提供に賃貸住宅はどのように貢献していくことができるのか.SDGsの視点に立った新たな仕組みが大きなネットワークを構築し,次の社会へと繋がる新しい価値が生み出されることを期待しています.
結果発表
「第10回 大東建託賃貸住宅コンペ」は,2022年12月10日(土)に,アイデア提案部門のプレゼンテーション,2次審査を行った.165点(応募登録334件)の応募案の中から,1次審査通過5組によるプレゼンテーションと質疑応答を経て,順位を決定した.
また,第8回から引き続き募集が行われた「新たな賃貸スタイル部門」では,実際に建設された賃貸住宅の応募案から,千葉学氏,赤松佳珠子氏,横川正紀氏,林厚見氏の4名の審査委員により3点の審査委員特別賞を決定した.
1位 賞金250万円
山本晃城 亀山拓海(大阪工業大学大学院)
向こう三軒,うしとなり
- 住まいに生産を挿入した牛と生きる賃貸住宅の提案 -
【あなたのSDGs考】
わたしたちは「畜産業」に着目する.近年,代替肉という環境負荷低減を訴求する食のオルタナティブが出現.それにともない,畜産農家は減少し,基幹産業が衰退する.それは人口が少ない地方において,地域経済の停止を意味する.その地に住む人々は,生業の喪失によって,生きるために働くことで教育機会の低下,出稼ぎなど社会的貧困を招くだろう.社会の要望から生じる開発によって,地域住民の生活する権利が侵害されることとなり,「誰一人取り残さない」と矛盾した状況が生まれるといえる.大きな社会のサイクルから漏れるものは地球から淘汰されるかのように不良債権化し,生産と消費の場の接点がないことが,非持続性を生んでいる.SDGsとして建築ができることは,ライフスタイルに潜む生産と消費の関係を再編することではないだろうか.(応募案より)
模型写真
審査委員コメント
◯人間中心の考え方ではなく,牛などの「他者」にも目を向け,地域の過疎や酪農が抱えるさまざまな課題を建築的に解決しようとする意欲作.酪農や牛への詳細なリサーチは愛情に溢れたもので,その課題をただ解決するだけでなく,想像力を膨らませて新しい生活像を提案している点も,説得力があるし,共感する.おそらく同じような状況に悩む全国の酪農家にも,大きなヒントになるのではないか.たくさんの可能性を秘めた提案である.(千葉)
◯酪農の匂いの問題など,隣接して生活する上での課題にも,丁寧にリサーチして建築的に提案している点を高く評価した.子牛を高齢者へ貸し出す「カウレンタル」という一見奇抜な考え方も,高齢者にとって無理なくできてかつ子牛の育成にも必要なケアということで納得できる.(赤松)
◯家賃や不動産といった経済合理性の延長で成立している賃貸住宅の在り方に新しい風穴をあける可能性がある.居住密度などは改善の余地あるが,提案の発展性は高いと感じた.(横川)
2位 賞金150万円
高橋菜摘 岩橋知世 玉田希帆(武庫川女子大学)
つながる居場所
他人事から自分事へ
【あなたのSDGs考】
自分の目の前で家族や友達が困っていると助けたいと思い行動する.しかし,見ず知らずの人が困っていても声をかけることは難しい.これは相手のことを自分事と考えるか,他人事と考えるかの違いである.人は血縁や友情や愛情などの何かしらのつながりがないと他人事のように捉えてしまう.SDGsにおいても国が,地域が行なってくれるから自分には関係がないと,他人事に捉えてしまっているのかもしれない.
すぐに手を差し伸べられる身近な関係を築くことで,見ず知らずの人から友達へ,他人事から自分事へと意識が変わる.そうなることがSDGsの基盤となり,自然にひとりひとりが助け合える世界に変わっていくのではないだろうか?(応募案より)
模型写真
審査委員コメント
◯新しい生活と職を手にしたい人と,担い手がいない伝統技能を繋ぐ提案.地域の職人が移住者へ技術指導したり,おそらく移住者の選定も行うことを考えると,それぞれが自らの能力を提供して助け合う仕組みが成立していると感じる.(横川)
◯地域や産業,住人をいかに賃貸住宅で解決できるかという視点.観光という外の目線ではなく,移住者として受け入れることで,地域の問題や遠い国の問題にも自分事としてかかわりを生み出そうとしており,シナリオのしなやかさに惹かれた.提案では美濃和紙に注目しているが,そのほかの産業へも波及できるコンセプトであると思う.(林)
3位 賞金100万円
渡部泰宗 雷姝菡(大阪市立大学大学院)
Share Life
~まちの拠点となる新たな街区モデルの提案~
【あなたのSDGs考】
SDGsの「誰一人取り残さない」をテーマに,「11.住み続けられるまちづくりを」の項目を重点に置いて考えた.日本において,特に人口減少・高齢化の流れが大きくなっていくなか,住宅地の空家や老朽化が深刻化している.本提案の敷地は,私が生まれ育った大阪堺市が舞台になっており,今後のニュータウンの未来がどうなるのかをSDGsに照らし合して考えた.私が思う「10年,20年先もずっと住み続けられるまち」とは,小さな繋がりが途切れることなく,地域のなかでお互いが支え合える関係性があるまちである.本提案では,それらを新しい仕組みで実現させることを考えた.(応募案より)
模型写真
審査委員コメント
◯郊外住宅地において,個人のキッチンやリビングを地域へ解放することで,新しい賃貸生活の仕組みに繋げていこうという発想は素晴らしい.これからのコミュニティ施設はこうした個人スペースを拡張しながら運営されていく可能性があると思う.(千葉)
◯自分の生活に必要な部屋の機能をまちにちりばめて,必要な時にアプリなどで予約して使うというアイデアや,それを郊外のニュータウンで実践しようという試みが面白い.250mという範囲を想定したシェアの関係を提案しているが,行動範囲が限られた高齢者だけでなく,自立した住人もいるので,現実的にはもっと広い範囲で考える必要があると感じた.(小林)
4位 賞金40万円
平岩理子 若松南海 富田奈歩(早稲田大学)
SHINOOKUBO Kitchen House PJ
【あなたのSDGs考】
近年,日本社会では暮らしの多国籍化にともなう様々な問題が表出している.そのなかで私たちは,日本の飲食店におけるフードダイバーシティへの対応不足と,多国籍な地域でのコミュニティの持続困難性に着目し,これらを解決するツールとしての新たな賃貸住宅を提案する.本提案では,多様な人々と食文化の広がる新大久保を対象とし,異文化共生社会の実現を目指す「SINOOKUBO KITCHEN HOUSE PROJECT」を掲げる.多様な暮らし方や住民の入れ替わりまでをも許容しながらコミュニティを維持し豊かにできる社会が私たちの考えるSDGsである.(応募案より)
模型写真
審査委員コメント
◯集まって住む上で共有スペースが重要であるという提案は納得できるが,賃貸住宅は専有共有両方があってはじめて価値があるし,その関係性を考えることが面白い.2次審査会で住戸の提案がなされなかった点はもったいなかった.(千葉)
◯1階に設けた共有キッチンによって,個々の暮らしがどのように変わるのか,そこまで踏み込んだ提案となっていたら,よりキッチンの重要性も伝わったと思う.(赤松)
◯食の多様性から地域を繋いでいくアプローチは可能性を感じるが,賃貸住宅である必然性が薄いと感じた.(横川)
4位 賞金40万円
和田純(フリーランス) 酒井智央(NTTファシリティーズ)
転幻地材
〜仮想空間から転用を考える〜
【あなたのSDGs考】
SDGsは地球で暮らし続けるための目標だと教わった.発展途上国のため〜,エネルギーを絶やさないため〜,という話をよく耳にする.実現のための開発も積極的に行うとも.日本の今はどうだろう,都市と地方の人口,開発格差が年々広がってると感じ,国内産業も衰退していると感じる.SDGsを考える上で,まず日本の都市と地方の格差から小さくし基盤を整える.資源が不足しているなら代替の資源を開発するのではなく,今あるものを活用する.都市機能を地方に分散させることから始める.都市と地方を繋げるためには,整備が整いつつある仮想空間の利用がいいのではないか.なくなるもの,技術,文化の価値を残し,考える材料にする.また,仮想空間は日本国内だけでなく世界に気軽に繋がり,支援参加できると思う.(応募案より)
模型写真
審査委員コメント
◯今後,リアルと同じくらいデジタル空間について考える機会が増えると感じる.リアルな問題の解決方法としてデジタルを導入し,ミラーワールドながらリアルとデジタルで別の価値が生まれるというアプローチに共感した.(赤松)
◯建築や空間に結びついた思い出に価値をおき,それを残す空間としてメタバースを提案している.素材アーカイブの流通がどれほど社会から必要とされるのか疑問が残るが,従来とは異なる未来の建築行為を示唆する提案だと感じた.(林)
◯賃貸住宅は数年で住み替えるため,住まい手にとってはそこで暮らした思い出が大切.このデジタル空間が,その思い出を記録する仕組みとなれば,ビジネスとして展開する提案だと感じた.(小林)
入選 5点/賞金各10万円
今津俊佑(法政大学大学院) 宮本明輝(広島工業大学大学院)
【あなたのSDGs考】
個性豊かな人々が建築に集合し, 他者との繋がりをつくり, 誰もとり残さない建築.現代に相応しい多様で繋がりのある空間を掲示板的建築の挿入によって試みた.(応募案より一部抜粋)
入選
廣川大樹
【あなたのSDGs考】
SDGsにおいて自分の行動が街の景観を変え,自分のつくったものが人にわたる仕組みづくりが重要であると考えた.「畑」が日々の暮らしに「新鮮さ」を創出する提案.(応募案より一部抜粋)
入選
竹居英人(東京都立大学大学院)
【あなたのSDGs考】
食の持続可能性を考える.持続可能な社会の実現には,かつての人間の暮らしのように小さな単位・地域の中での循環が必要である.(応募案より一部抜粋)
入選
海老原耀(早稲田大学大学院) 八木このみ(東京理科大学大学院)
【あなたのSDGs考】
日本一地価が高い銀座において,新人作家が住まえる経済利益循環と自然環境保護のための古本再生紙による環境利益の循環を提案する.(応募案より一部抜粋)
入選
辻村修太郎 吉田祐介(フリーランス)
【あなたのSDGs考】
生産緑地に着目し,農地/宅地,所有/共有の関係性を再構築し,持続的・循環的に生産をあげる農業行為と賃貸住宅を紡ぎ合わせた住宅群を提案する.(応募案より一部抜粋)
表彰式および記念撮影
受賞者と審査委員.2次審査会は大東建託の「ROOFLAG賃貸住宅未来展示場」で開催した.
審査講評
千葉学(審査委員長・千葉学建築計画事務所 東京大学大学院教授)
今回,SDGsというテーマと向き合うにあたり,人間中心の世界を捉え直すよい機会ではないかと考えました.人間の環境を共につくる隣人たち,つまり動物や植物などの世界からの視点で物事を捉え直してみることで,私たち人間の環境に潜むさまざまな課題はどのように解決できるのか.そこへの道筋を,想像力逞しく描いていくことが大切だと思ったからです.それが僕なりのSDGsでもありました.
そのような評価軸を持って臨んだ今回,1次審査,2次審査を通じて皆さんの提案や審査委員の方々との議論には多くの気付きがあり,大変充実した時間となりました.1位となった山本+亀山案は,1次審査の時から動物(牛)の視点があることに興味を持っていました.生活を支える産業と日常生活が共存する場所のあり方は,近い将来リアリティを持ってくるのではないでしょうか.また,今回受賞されたほかの提案も,これからの時代に考えるべきテーマを設定し,詳細な分析のもとにそれぞれのSDGsを提示していて,建築に携わる皆さんが時代の変化に敏感に反応していることを大変心強く思いました.
これまで長いことこのコンペの審査をしてきましたが,実際に何か新たな仕組みを持つ賃貸住宅を実現するのは本当に難しいことです.僕たちが賃貸住宅に取り組み始めた頃は,事業収支のモデルは画一的なもので,事業としても空間としてもできることは限られていました.でも時代は変わりつつあって,新しい空間のアイデアから新たな事業性を引き出すことも,新しい仕組みが次の時代の建築を生み出す可能性もあります.その両面からの試みが次の賃貸住宅を切り開いていく,そういう時代にいるのだと思います.皆さんがこのコンペを通じて発見したテーマを,ぜひ今後も何らかのかたちで発展させていっていただけたら嬉しいです.
赤松佳珠子(CAtパートナー 法政大学教授)
今年は久しぶりに対面でプレゼンテーションを聞いて直接対話し,力作の模型も拝見することができ,オンラインでは感じ取りづらい臨場感や熱量を感じることができました.作品に対する提案者の思いや思考の深みが,リアルな場の空気感から伝わってくるものがあり,改めて対面で審査することの醍醐味を感じました.
今回の「賃貸住宅とSDGs」というテーマは,提案者の方にとって難しい課題だったのではないかと思います.私自身もSDGsそのものをどう理解すればよいか,社会問題をSDGsという枠組みにはめ込んで考えるのは正しいことなのか? など,自分なりの答えが漠然としたまま今回の審査に望むかたちとなりました.
しかし今回皆さんのさまざまなSDGs考,提案を拝見し,皆さんがものすごくこのテーマに対して真摯に向き合って考えていること,これからの未来に向かってあるべき社会問題の解決を導き出そうとしていることに感銘を受けました.皆さんの考えをもっと聞きたくて審査の中でいろいろと質問をさせていただきましたが,そういった議論を通して皆さんにも私たちにもそれぞれ気付きが得られたのではないかと思います.そして,そのことが最も重要なことなのではないかと思っています.1位を受賞した山本+亀山案は1次審査の時は牛の存在がペットのようにしか感じられなかったのですが,2次審査時には賃貸住宅を介した新たな産業のあり方の可能性を見せてくれました.4位の和田+酒井案も,仕組みとしてはまだ未完な部分はありながらも,こういった仮想社会との連動は今後の潮流を予感させるものであったように思います.新たな賃貸スタイル部門で受賞された3組のプレゼンテーションも,賃貸住宅の可能性とその幅を実際に確認する作品ばかりで,これからの賃貸住宅の可能性,その広がりを益々期待する機会となりました.
横川正紀(ウェルカムグループ 代表)
今回は久しぶりにみなさんと直接対峙することができ,コンペの面白さを改めて感じました.山本+亀山案が1位となった流れも,審査委員それぞれの価値観を持って議論する中で,僕たち自身もなるほどなと納得したり,学んだり,新たな価値観への想像を膨らませることができた結果だと思います.賃貸住宅の提案において,今回のように産業も含めた仕組みを考えてみるあり方は,SDGsの観点からということを超えて,これからの人間社会に必要な課題解決を示すものとなっていたのではないでしょうか.
実社会に出ると,事業や不動産開発はすべて収支のバランス,既存の価値の中でしか図られないことが多いです.日々その中にいると忘れがちな価値観を,みなさんの自由な発想に触れる度に改めて再認識する機会となり,学びや気付きとなっています.今回,SDGsという難しいテーマへの挑戦になりましたが,みなさんが果敢に向き合い,いまの社会を冷静に分析して課題設定と解決を目指した提案をつくっていること自体に,その先に新しい未来があるんだと確信したし,既存の概念を打ち壊す新たな展開はこれからきっとたくさん生まれてくるのだと思いました.入賞はされずとも素晴らしいアイデアはいくつもありましたので,それらが世の中に発信され,人の気付きが繋がっていったら素敵だなと思います.
新たな賃貸スタイル部門の3組の作品,それに関わられたみなさんには敬意を表したいです.実際につくるとなると,さまざまな条件がありシビアな世界です.それをひとつひとつクリアして素晴らしい取り組みが具体化していることに勇気をいただきました.
林厚見(スピーク共同代表 東京R不動産ディレクター)
今回初めて審査に参加させていただきましたが,皆さんの提案とプレゼンテーション,素晴らしかったです.建築コンペでありつつ,通常のアイデアコンペとは違って賃貸住宅としての現実性や事業性,SDGsの考え方も含めて,それらを建築的な空間のアイデアによって表現することが必要になる.これって何重にも高いハードルですよね.考えてみるだけでクラクラします.しかしびっくりするほど皆さんの発想や興味の持ち方,問題の捉え方の幅は広くて深い上に,社会的目線の持ち込み方が素晴らしいと思いました.そして建築に落とし込む時にはある種のロマンや面白さ,気持ちよさといったさまざまなものを一緒に表現していくことができる.そうした建築家の想像力は無限大なのだと思えて,これからの希望を感じながら審査させていただきました.多様な賃貸住宅のあり方を目の当たりにして,建築を通して新たな価値観の創造に挑戦されている皆さんに賞賛しかありません.
実際に社会に出て仕事をすると,さまざまな制約の壁にぶち当り,今回のような柔らかい発想や面白いアイデアを具体化していくのは無理じゃないか? と思う局面もあるかもしれません.そういった制約にぶつかると多くの人が引いてしまうのですが,実はそれらに「縛られる」べきではまったくないのです.むしろそれを乗り超えていくために何ができるかを,いま持っている方法論や領域から越境して考えていくことです.今回提案いただいたたくさんの発想も,現状の前提や仕組みを変えていくことができる要素が多々あります.柔らかい発想を上手くはめ込むことができれば,この膠着した世の中は変わっていくんです.そのための戦術やプロセスを皆さんがどのように実現していけるのか,それを思うとワクワクします.そして僕も役に立てる場面があれば,是非登場させていただきたいと思います.
小林克満(大東建託株式会社 代表取締役社長)
今回,第10回の節目となる賃貸住宅コンペのテーマを「賃貸住宅とSDGs」というかたちで募集させていただきました.今年も多数の応募をいただき,大変ありがとうございました.
このテーマは近年私たちが向き合ってきた大きなテーマであり,是非建築に携わる皆さんとも一緒にこのテーマを考え,アイデアやご意見をお聞きしたいと思いました.
審査会は久しぶりにリアル対面の場で行われ,素晴らしい提案を直接拝聴し,審査委員の方々と議論を交わすことができました.数年かかりましたが,やはりリアルはよいですね.
作品について,1次審査の時にはダイバーシティ的に街がどのように変化していくのか,平岩+若松+富田案に注目していましたが,その展開が少し弱かったのが残念でした.山本+亀山案,高橋+岩橋+玉田案は着眼が素晴らしく,課題の設定と解決のあり方に魅了されました.衰退する産業を活性化させたり,地方を元気づけコミュニティを支える仕組みとして賃貸住宅が社会に貢献できる可能性を示していただけたこと,重く受け止めています.
新たな賃貸スタイル部門では,既に取り組まれている賃貸住宅の新たな試みの話をお聞きし,我々もしっかりと頑張らなければと思った次第です.
今回の皆さんからの提案を気付きとして,私たち自身のSDGs考を今後も追求していきます.