主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社

最新情報

2015年2月27日
審査講評をアップしました。
2015年2月13日
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2015年1月9日
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過去のコンペ

テーマ座談会

※テーマ座談会の模様は動画でも配信しています。この欄の下をご覧ください。

 

40年後の未来の賃貸住宅

小泉雅生×五十嵐淳×鍋島千恵×小林克満

「賃貸」を主題にしたコンペの第3回を開催するに先立ち,審査委員の方々に,まず一昨年開催された第1回コンペ(テーマ:「風景をつくる賃貸住宅 都市郊外の街並みを変える新しいかたち」),昨年開催された第2回コンペ(テーマ:「新たな『賃貸住宅』を考える 賃貸で住まう集合住宅を刷新せよ!」)を振り返っていただき,その後,今回の課題テーマについて,話し合っていただきました.(編)

 

第1回,第2回コンペを振り返って

——過去2回のコンペを振り返り,今回のコンペではどのような方向性が考えられるのか,皆さんとお話ししていきたいと思います.

小林  第1回は「風景をつくる賃貸住宅」,第2回は「新たな『賃貸住宅』を考える」というテーマで開催しましたが,それぞれに多様なアイデアが寄せられ,私たちとしても多くの発見を得ることができました.このコンペは「集合住宅」だけでなく「賃貸住宅」について特化して考えることを目指しているのが特徴です.「賃貸」という視点を建築の魅力と合わせて表現するのは難しいかもしれませんが,3回目となる今回も「賃貸住宅」に対して,新しい価値観を見つけていく方向性を継続したいと思っています.

小泉  第1回はモノの話,第2回はシステムの話がベースになっていたので,今回は人をベースにテーマを設定してみるのはどうでしょうか.ただ,その前提を単純にとらえてしまうと「賃貸」という言葉から若者や未婚の人びとの仮住まいという発想に偏りそうなので,そうならないための設定やルールを考える必要がありそうです.

五十嵐  過去2回を振り返ると,どんなテーマであったとしても,最後には「建築」として面白い空間,見たことのない空間を選びたいという思いが根底にあったように思います.コンペでの議論の蓄積を実際の事業に活かし,今後につなげていくことが目指されるのであれば,大東建託のスタンスやコンペに期待していることをもう一度うかがいたいです.

 

創業40周年を迎える大東建託

小林  大東建託は今年で創業40周年を迎えます.この節目の機会にいくつかの建築に関わるプロジェクトを始めていて,ひとつは「賃貸住宅未来研究所」(http://mirai-ken.com/)を発足させました.これまでスローガンとして掲げてきた「賃貸住宅にできることを,もっと.」を追求し,そこに暮らす人びとの「もっと」の声を「ほんと」に具現化していくことが目標です.そのために,ハード,ソフト両面での研究をはじめ,さまざまな角度から賃貸住宅の新たな価値を発信・提案・創造していこうとしています.もうひとつの取り組みとしては賃貸経営ネットワークを立ち上げ「賃貸住宅明日への試論」や「超高齢社会が,日本の賃貸住宅を変える」などの情報を冊子にまとめ,お客様に配布し始めました.今年は,会社として高齢者の暮らしに注目しているのですが,介護のトピックだけではなく,元気な高齢者に対して賃貸住宅がどのような住空間を提供できるのか,ということもテーマにしています.
1974年に創業してからの40年間を振り返ると,入居者のライフスタイルはずいぶん変わりました.74年は高度経済成長の真っただ中にあり,住宅や車を持つことが夢でもありました.70年代後半には核家族化や家族の個人化が進み,当時は2020年くらいに高齢化の波がくるといわれていながら,それは随分遠い未来のように思っていました.たとえば,1968年に「2001年宇宙の旅」が公開され,1952年に2003年の姿として『鉄腕アトム』が,1996年に2014年として『新世紀エヴァンゲリオン』が描かれています.未来都市といっても,その当時の予想と実際にはずいぶんギャップがありますが,あの頃,2014年は「未来」でした.
大東建託としては,住宅のマーケットの変化をとらえながら,賃貸住宅が「未来」に向かってどのように変化すべきかを考えていきたいと思っています.コンペにおいても,次に来る時代を見据えたアイデアを募りたいので,今回のテーマとして「未来の○○のための賃貸住宅」と掲げるのはいかがでしょうか.「時間を受け止める賃貸住宅」というテーマもよいかもしれません.もしくは,対象を限定して「高齢者のための賃貸住宅」というテーマにすると,現在の社会状況ともマッチした有意義な議論ができそうです.

鍋島  小泉さんが先ほどおっしゃっていた,人をベースにするテーマ設定にはとても興味があります.ただ第1回は「風景」,第2回は「新たな」という大きな受け皿のテーマだったので,最終的にいろいろな問題定義が提案されて,それがこのコンペの魅力になっていたのに対して,「高齢者」と具体的な対象を絞ってしまうと限定的な案が多くなり,今までのよさが消えてしまう気がします.

小泉  では,「未来の」というテーマで人を媒介に考える,というルールにするのはどうでしょうか.今われわれに見える人をターゲットにするのではなく,もう少し先の人を見据えて下さい,とすると面白いかもしれません.

五十嵐  当然未来にこういう人たちがいるからこう暮らすんだ,と対象を考えないと建築は設計できないですよね.その中で,高齢者をテーマにする人もいるかもしれないですし,まったく違う対象に向けて考えることもあり得ます.それくらい幅があった方が議論が広がっていく気がします.

小林  未来の設定を自分でしなくてはいけないのでハードルが上がりますが,刺激的な提案が集まりそうです.

 

「賃貸住宅」にできることを考える

鍋島  「未来の」という方向性で進めるとして,前提である「賃貸住宅」という条件がどのように考えられるのかを,もう少しわれわれで議論しておきたいです.

小林  未来の賃貸住宅は,分譲住宅との垣根がなくなっていくかもしれません.契約のかたちとして「所有」と「レンタル」という違いはあるにしても,たとえば「壁に釘を打ってはいけない」という賃貸特有のルールは,住み手のニーズに伴ってもっと自由に変わってもよいと思います.賃貸住宅だからこそ,オーナーの価値観によってルールが決まり,建物の振れ幅が変わっていくこともあり得るのではないでしょうか.

小泉  つまり,入居者よりオーナーの方にスポットが当たるかもしれないということですよね.その考え方には可能性を感じます.

小林  今のマーケットは,どのような人も受け入れられる賃貸としていますが,オーナーが住んでほしいと思う入居者を自らイメージし,その人たちのために心地よい空間をつくれば,もう少し空間にさまざまな質やバリエーションが出てきて建築の個性も引き立ちそうです.

小泉  単に同じ趣味をもつ人たちが集まることに特化して,たとえば「バイク愛好者のための賃貸住宅」とか,そういう方向になってしまうとこのコンペで考えていくべきテーマとはずれてしまいそうですが,「未来の」とあることで,また違った提案が出てくることに期待したいですね.オーナーの価値観があり,その価値観に共鳴して人が参加することが賃貸のひとつのかたちになるのは新しいと思います.

鍋島  最終的には,オーナーの考えが集合体として機能することで,賃貸住宅が街にまで影響を与えていくときっと面白くなりますね.

五十嵐  他の切り口を考えるとすると,今後人口が減っていく中,集合住宅だけが増えるのは社会経済の流れと矛盾するので,そのことを突き詰めて賃貸住宅に向き合ってみるのはどうでしょうか.

小林  そうすると,新しくつくらないリノベーションの提案も出てきそうですね.改修して住み継ぐ考え方も随分一般的になってきましたが,物理的なスペックだけの話ではなく,空間の気持ちよさも大切ですし,そこで起こるであろう未来の出来事をどう想定するかも考える必要が出てきます.現状の話をすると,たとえば昔の集合住宅は2階建て片廊下の鉄骨造が非常に多くて,その形式だと1階はそのままバリアフリー化できるんです.階段を上がらずに済むし,車椅子でも入ることができるので,1階をバリアフリーとし,入居者を増やす計画事例が出てきています.単なる改修ではなく,そこに高齢者というマーケットを合わせた時に導かれたひとつの解答例です.

小泉  人口についていえば,未来においては移民問題も考えていかなくてはいけないことのひとつですね.とても重いテーマですけれど.

小林  外国人労働者がワンルームに4,5人住んでいて重なり合うように寝ているなど相当劣悪な環境にあることが一時問題になりました.

五十嵐  これまで人間は自然を壊して居場所を広げてきたので,人口が減少していく中で,居場所を縮小して集合すべきという考え方もありますね.

小泉  地方都市や駅前にタワーマンションができて,街としてコンパクト化していく状況が今まさに起きつつあります.
現状の社会問題や環境の変化を読み解きながら,起こり得る未来を想像し,賃貸住宅のあり方や制度の工夫で,よりよいかたちに着地するような提案が出てきたらと思います.

鍋島  こうして話してみると,「未来」のために賃貸住宅を考える切り口はさまざまにありそうですね.テーマとしては,あまり限定せずにそれぞれの問題設定で考えてもらうことにして,未来のどの地点を目指すかという尺度だけを規定するのはいかがでしょうか.

小林  では,40周年の40という数字に着目して「40年後の未来の賃貸住宅」とするのはどうですか.

一同  賛成です.

小泉  40年後にできる賃貸住宅を考えるのか,今つくった賃貸住宅が40年後の未来でも生きていると考えるのかでは,違う提案になってきますが,どちらの方向性を推奨しましょうか.

五十嵐  「40年後にできる賃貸住宅」を考えてもらうのがよいと思います.

 

40年後の未来を想像する

──最後に,応募者へのメッセージをお願いします.

小泉  40年後の賃貸住宅を考える時,未来にはどのような技術革新があるか,社会や経済,個々人のライフスタイルがどう変わっているかなど,さまざまなファクターがあると思うので,視点を明確にして,具体的な建築に結びつけて提案していただきたいです.

五十嵐  未来という言葉から時間やテクノロジーなどいろいろなことが想像できますが,それがどんなものなのか,僕にもよく分かりません.けれど,結局は人間が主題になると思っています.どんな未来を描こうとも人間にとって明るい未来を期待できる建築を見せてほしいです.

鍋島  40年前の先人たちが考えていたことと同じではなく,先人たちの考えを踏まえた上で,私たちがこれからを想像するとどうなるのだろうか,ということを考えてみてください.それが夢のあるテーマであってほしいです.そして,ソフトや仕組みの話だけにとどまらず,建築の形式や構築のされ方までをかたちにして提案してください.

小林  たとえば,私たちが生まれた頃には,今や当たり前のように人びとの暮らしに根付いているスマートフォンもこの世にはありませんでした.40年という時間軸の先にある私たちの暮らしは随分変わってくるでしょう.未来の暮らしがどんなものになるのか予測しきれないところは多いですが,それに負けない強い建築を見たいです.大東建託40周年に際して開催するこのコンペが,未来につながる賃貸住宅の可能性を探る機会になればと思っています.たくさんのご応募をお待ちしています.

(2014年7月2日,大東建託本社にて 文責:本誌編集部)

 

テーマ座談会の模様