主催:大東建託株式会社  後援:株式会社新建築社  コーディネート:リトルメディア

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過去のコンペ

座談会

新たな仕組みを持つ賃貸住宅が街を変える

千葉学(千葉学建築計画事務所/東京大学大学院教授)
宿本尚吾(豊島区副区長)
小林克満(大東建託株式会社専務取締役)

進行:中村光恵(リトルメディア)

 

左から、宿本氏、千葉氏、小林氏。

 

第6回コンペを振り返って

──昨年に行った第6回のコンペでは,対象敷地である豊島区が抱える社会問題を新しい賃貸住宅がどう解決していくかという切り口で仕組みと空間を一緒に提案していただきました.まずは前回の感想からお聞かせください.

小林 2012年から「賃貸住宅コンペ」を開催し今年で7回目になります.2016年の第5回まではどちらかというとアイデアコンぺの色合いが濃く,第6回の企画段階でより大きな社会問題にアプローチできる賃貸住宅のアイデアを募る方法を模索していました.そこで考えたのが「賃貸」という仕組みと建築の空間を明快に提案してもらえるプレゼンテーションのあり方でした.もうひとつは,今まで通り多くの方に応募いただく「一般部門」と,大学を指名して,社会問題のリサーチを含めた,より具体的な提案をしてもらう「指名大学部門」のふたつの部門の設定です.また,東京23区で唯一消滅可能性都市に指定された豊島区を舞台に課題解決を求めました.豊島区は,ある種日本全体の縮図とも捉えられるエリアで,ここで賃貸住宅の可能性を示せれば日本社会にとっても価値のある,インパクトある提案になるのではないか,と考えたからです.結果,さまざまな提案が出て非常に興味深い内容となりました.指名大学部門では,学生自身が豊島区の抱える少子高齢化や人口減少,木造密集地域の問題を身近に感じ,具体的な提案をしていたのが印象的でした.

宿本 まずはじめに,豊島区を舞台に選んでくださったことに感謝いたします.豊島区としても,2014年に消滅可能性都市との指摘を受けてから少し時間が経過していたタイミングだったので,区の抱える課題について,学生や若い設計者の方がたの提案を通じて第三者の目線で相対的に見る機会をいただけたのが非常によかったと思います.豊島区の実際のプログラムに繋がるような提案も多く見受けられました.

千葉 学生は,普段「賃貸住宅」といってももっぱら空間の問題としてしか捉えておらず,社会のどのようなところで制度や経済に絡んでいるのかに関しては考えていないと思います.その一方で学生はとても敏感なので,アパートに入り,賃貸マンションに移り,分譲マンションを買って,最後に一戸建てを持つ,という住宅すごろくのような道筋がもはや成り立たなくなっているのも分かっています.むしろ大きなくくりで賃貸と呼べる,たとえばシェアハウスや民泊などがたくさんでてきている状況下で,「賃貸住宅」に可能性があることは直感的に分かっているのではないでしょうか.シェアハウスや民泊は,空間と時間をどうマネジメントするかという観点で既存施設の新たな価値を提示しているようなものです.「賃貸住宅」においてもマネジメントの視点を含めて,これからの都市空間や居住について考えなければいけません.学生にとってはそのようなことを具体的に考えるよい機会だったと思いますし,すでにさまざまな動きが社会で起き始めている中で真っ向からいろいろな可能性にアプローチできたのではないかと思います.

小林 学生の皆さんからしてみると,ビジネスとして賃貸の仕組み(スキーム)まで提案することが求められ,あまり馴染みのないテーマだったかもしれませんが,一生懸命ビジネスモデルを考えて,収支など事業性を検討するところまで取り組んだことが面白かったというのが率直な感想です.

宿本 そもそも住宅すごろくに関心がない方も,もちろんいらっしゃるのですが,一方で住宅すごろくでゴールを目指したいけれどそれが難しい方が「賃貸住宅」に住んでいる状況もあり,区としては大きな課題です.そういった方々に対してコミュニケーションを含めてどういう場所を提供するのか,「賃貸住宅」に誰が住み,何を生業としていくかという仕組みを根本的に考え直すことの重要性を改めて感じました.

 

賃貸住宅がつくりだす公共性とコミュニケーション

──応募案を見て印象的だったのは,いろいろな要素をコンプレックスさせて公共利用を促す姿勢や,コミュニケーションを重視していく姿勢が通底している点です.賃貸住宅と公共性やコミュニケーションの関係性についてはどうお考えでしょうか?

千葉 大家族でもなく地縁的なコミュニティも少ない時代に育ってきた人たちが,もう一度なんらかのかたちで人と繋がりたいと思っているのは間違いありません.ただその繋がり方はかつてのように親密なものではなく,付かず離れずのほどよい距離感を模索している段階にあるのだと思います.コミュニケーションしたいけれど,隣にいてもメールでやりとりしてしまうような現象も含めて,いろいろな繋がり方が提案されていると感じます.若者だけではなく世の中全体がこのような潮流にある中では,繋がり方をデザインできる「賃貸住宅」は社会資本と位置付けてつくっていったほうがよいのではないでしょうか.戸建て住宅だとできなくなってしまうことが何世帯かが集まることで,公共空間を生み出せたり,公園や道路といった社会インフラを変えていく可能性も生まれてきます.個人の空間の寄せ集めというよりは,集まったことによって生まれるいろいろな社会的インパクトをもっと考えていくと面白いのではないかと思います.

宿本 提案の中にもありましたが,集まった人たちが協働して公園の管理をしたりお年寄りを世話するなど,なんらかの義務を負う,または貢献できるといった試みも考えられます.たとえば,豊島区は日本でいちばんの高密都市で,集合住宅だったり,戸建て住宅であっても庭がなかったりする中で,公園が大事な存在になっています.そんな中でできた「南池袋公園」(本誌1607)周辺で起きていることは画期的です.イベントなどを開催しなくても普段からたくさんの人が集まり,賑わいの場となっています.このような公園をただ公園として捉えるのではなく,居住地や地域の価値を高めるツール,新しいコミュニケーションをつくるツールとして位置付ける動きは非常に面白いのではないでしょうか.

小林  地縁的なコミュニティの話をすれば,われわれの世代においても,会社がコミュニティの拠点になっている場合が多く,地元に接点がないわけです.私の場合は子どもの少年野球の繋がりが今でも続いていて地域の催しにも参加できていますが,上京した単身者や独居老人など,そういった選択肢が少ない人たちが今後増えていくと思われます.そのような人たちにとっての賃貸住宅がどのように展開されていくのかも考えていかなければなりません.

宿本 防災について考えた時にも,地域のコミュニティというものが重要となってきます.災害時には,被災者が近隣の市民に助けられるケースが多く見られます.住まいの形態について建築基準法では「住宅」と「寄宿舎」に分類され,寄宿舎のほうが厳しい規制がかけられています.火事になった時に逃げ遅れている人がいるのかどうかが分かる,建物のどこから逃げられるかが分かるという,つまり,住んでいる人たちの状況を把握できるか,建物の構造を理解しているかどうかがふたつの差になっているのだろうと考えています.寄宿舎は,隣の人が今何をしているか,隣の部屋がどうなっているか,当然わかりませんよね.一方で,いわゆる家族ではないけれども,寄宿舎における住まい方,暮らし方とも異なるシェア居住が広がっているという現実もあります.今後賃貸住宅でコミュニティをつくっていくには,やはり「寄宿舎型」ではなく「住宅型」で緩やかな繋がり方・暮らし方を目指していくべきだろうと思います.

小林  われわれの会社でも,阪神淡路大震災や東日本大震災を契機として,「賃貸住宅」で防災についてどう考えていくかをひとつの大きなテーマとしています.会社が経営する賃貸住宅であればわれわれの意思でできますが,オーナーさんの賃貸住宅を会社が借り上げて管理している場合,オーナーさんの社会貢献に対する考え方も重要な要素になってきます.防災と社会インフラとしての賃貸住宅をビジネスとしてどのように成立させることができるかが大きな課題です.

 

賃貸住宅特有の「オーナー」という存在

──賃貸住宅の切り口として,住まい手がそこでどう生活するかと同時に,オーナーがどのくらい地域貢献に意識を持つかという点も大きく影響するのではないかと思います.

宿本 東池袋に「ロイヤルアネックス」(1988年)という賃貸住宅があります.もともとは普通の賃貸マンションでしたが,オーナーがリノベーションをしたりイベントを開いたりした結果,入居者同士で結婚したり,繋がりが活性化し,今では入居待ちの状態です.オーナーや管理人の方の意識次第で,こうしたパワーを持った賃貸住宅も生まれるのかもしれません.

小林 まずはオーナーの「この場所でこうありたい」という情報を統括し,蓄積していくことが大事だと思います.さらに言うと,入居者とオーナーだけでなく管理会社や仲介業者,設計者などの主体が幅広いことに加えて,契約の形態も多岐にわたってくるので,非常に変数が多いのが賃貸住宅の難しいところであり,面白さです.オーナーの意思を前提にしつつ,このような複雑に絡み合う変数を「新たな仕組み」として解決していくことで,住まい方の可能性も広がると思います.

千葉 今,集合住宅・ホテル・宿舎など,いろいろな形態の境目がなくなってきています.法制度面では追いついていないところもありますが,民泊は集合住宅としてつくった建物がホテルとして機能している状態です.設計する側から見たホテルと集合住宅の違いは,サービスがどれだけ提供されるかあるいはされないかです.それが商売やビジネスに結びつくのか,公共的な繋がりを支える仕組みに傾くのかの違いはあれど,都市に住むという観点の中では従来のビルディングタイプを横断的に捉えていく視点が必要です.昔の下宿では,大家さんと一緒にご飯を食べるといったケースもありましたが,そういった状況がいま改めて多様なかたちで展開し始めているのかなという印象です.

 

第7回コンペに期待したいこと

──第7回の指名大学部門では日本全国の大学を対象とし,一般部門でも敷地も限定せずに,おのおのでその地域における課題を解決するため、敷地を決めて賃貸住宅を提案していただきます.こうしてエリアを広げた時に期待したいことをお聞かせください.

宿本 やはり地域固有の課題を解決する提案であることが第一だと思います.地域の課題は何で,どのように解決するか,そのために賃貸住宅はどう寄与するのかということを考えてもらいたいです.そこには学生でなければ発見できない課題だったり,発見できても解決できない課題もあると思います.豊島区は消滅可能性都市と指摘されたので女性や子どもに優しいまちづくりを進めるなど,課題が見える化されていました.普通の地方都市においても同様の課題は見えてきますが,それに加えてそれぞれの対象地域固有の課題について賃貸住宅を絡めてしっかり掘り下げていかないと,どれも同じような提案になってしまう気がします.

小林 行政の動き方も視野に入れていただけるとよいかもしれません.2014年に全国896の自治体が消滅可能性都市に指定されましたが,4年の時を経て,各行政の取り組みに対する一定の評価ができる時期になっていると思います.それらのよし悪しや反省も含めて,自分たちの提案に繋げていけると面白いと思います.

千葉 地方都市が抱えている課題には相当な幅がありそうです.人口減少問題がある一方でいまだにスプロールしている街もありますし,農業や漁業といった産業面での問題,中心市街地の衰弱問題も挙げられます.住宅政策の観点から言うと,戦後の住宅供給の時代から続く持ち家政策を経て,それ以降の手が打たれていません.地域ごとの課題と組み合わせた次の一手に期待したいです.

 

(2018年7月8日,大東建託本社にて 文責:『新建築』編集部)
※座談会出席者の肩書きは座談会当日のもの


 

座談会協力:
宿本尚吾(やどもと・しょうご)

1967年 奈良県生まれ
京都大学大学院工学部建築学科卒
1993年 建設省入省
2016年4月~2018年7月
豊島区副区長
2018年7月~
国土交通省住宅局建築環境企画室長

 

審査委員からのメッセージ

赤松佳珠子
C+Aパートナー/法政大学教授

その地域ならではの賃貸住宅のあり方を発明してください!
少子高齢化や空き家問題など、同じ言葉でも、それぞれ違った問題に直面しているはず。賃貸住宅も、本来はその地域の気候風土、生業、歴史、文化と繋がっているべきものだと思います。その地域、その街だからこそ、の、魅力的な住まい方を発明してください。

©Nacasa & Partners

横川正紀
WELCOME Group代表

さまざまな地域だからこそできる、新たな価値観の創造を発信してください!
社会構造が変わり、住まい方にもさまざまな変化が求められている今、その場所が抱える問題や、社会固有の課題を解決する、地域それぞれの住まい方が生まれてもよいのではないでしょうか。前回と同様、既成概念に縛られずに未来と向き合ってほしいです。

ゲスト審査委員

連勇太朗
モクチン企画 代表

その提案は「自分」と関係していますか?
「賃貸住宅」も「社会問題」もカテゴリとして捉えてしまうと、たちまちその本質が見えなくなってしまいます。「身近な=自分事」を起点としてリアリティーに迫れるのかが問われているのでしょう。同時に、社会への展開可能性にも期待したいところです。