第8回大東建託賃貸住宅コンペ
テーマ さまざまな生活を支える新たな賃貸住宅
大東建託株式会社では、2012年から「賃貸住宅コンペ」を開催し、賃貸住宅の新たなかたちを皆様に提案していただきました。第1回~第5回はアイデアをベースとし、さまざまな示唆に富む多くの提案から、賃貸住宅の考え方を議論してきました。2017年の第6回からは、賃貸の仕組み、スキームにも焦点を当て、賃貸住宅の既成概念に捉われることなく「空間」と新たな「仕組み」の考え方を組み合わせることから、どういった賃貸住宅のあり方が可能かを皆様に提案していただきました。
第8回のコンペは、今年から大東建託が掲げる「生活総合支援企業」というスローガンをヒントに「さまざまな生活を支える新たな賃貸住宅」というテーマにしました。自身のライフスタイルや自身の仕事など、身近な問題を想像して、不足していることや問題になっていることを考え、賃貸住宅との関係を提案してください。
「こうだったらいいな」という日頃感じている潜在的な願望に意識を向けてみたり、社会貢献の視点を持つなど、さまざまな目線から問いを立てることでも、独自の提案が生まれると思います。
どのような賃貸住宅であれば身近な問題を解決することができるのか。新たな「空間」のあり方と「仕組み」を今年も皆さんと考えていきます。引き続きたくさんのご応募をお待ちしています。
賞金
- 最優秀賞1点200万円
- 優秀賞1点50万円
- 佳作1点10万円
- 入選4点各5万円
賞金はすべて税込みです。
スケジュール
- 2019年8月27日 (火)応募登録開始
- 2020年1月7日 (火)登録・作品提出締切
- 2020年1月中旬~下旬1次審査結果発表
- 2020年3月8日 (日)公開2次審査+表彰式
- 2020年4月1日 (水)最終結果詳細発表
応募要項
登録方法
本コンペに参加するためには、事前に当ウェブサイトの登録フォームから登録を行ってください。必要事項を入力し送信すると、e-mail で登録番号が交付されます。この登録番号は応募にあたって必要になりますので、紛失しないよう、 記録・保存してください。
・交付後の、登録番号に関するお問い合わせには応じることができません。
・複数案応募する場合には、作品ごとに登録が必要です。
・応募登録は当ウェブサイト以外からはできません。
・登録後、内容に変更があった場合は再度登録をし直してください。
・携帯のメールアドレスでは登録通知の返信メールを受け取れない場合があります。提出物
A2サイズ(420mm × 594mm、片面横使い 1 枚)提案のタイトル/「賃貸」の新たなスキームを示すダイアグラム等/設計意図を表現したものをケント紙あるいはそれに類する厚紙1枚に納めて提出してください。表現方法は自由。立体(突起物や凹凸)、額装、パネル化は不可。裏面は白紙としてください。
登録番号の記載
一般
提出用紙の表面右下に35ポイントの文字サイズで登録番号を明記してください。登録番号以外の応募者を特定できる内容は記載しないでください。
NEW IDEA
提出用紙の表面右下に35ポイントの文字サイズで登録番号を明記してください。登録番号以外の応募者を特定できる内容は記載しないでください。提出先
株式会社新建築社「大東建託 賃貸住宅コンペ 係」(必ず明記のこと)
〒100-6017 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング17F
TEL. 03-6205-4382その他
・応募作品は未発表のものに限ります。
・応募作品は返却致しません。必要な場合はあらかじめ複製をしておいてください。
・入賞後の応募者による登録内容の変更は受け付けません。
・同一作品の他設計競技との二重応募はご遠慮ください。
・本コンペ応募作品の著作権は応募者に帰属しますが、応募作品の発表に関する権利は主催者・後援者が保有します。
・入賞後に著作権侵害やその他の疑義が発覚した場合は、すべての応募者の責任となります。また、そのような場合は主催者の判断により入賞を取り消す場合があります。
・公開2次審査用の模型は、返却いたしません。
・本コンペにおいて取得した個人情報は、主催・後援・コーディネートが共有しますが、本コンペの運営以外に使用 いたしません。また、第三者に譲渡や転売はいたしません。
座談会
潜在的な願望を引き出し、新たなライフスタイルを創造する
連勇太朗(NPO法人モクチン企画代表理事、株式会社@カマタ共同代表)
小林克満(大東建託株式会社 代表取締役社長)
進行:中村光恵(コーディネート、リトルメディア代表)
──「大東建託 賃貸住宅コンペ」は第8回を迎えました.第6回からは空間のデザインだけでなく賃貸の仕組みについても提案を募り,興味深い案が多数寄せられました.賃貸の仕組みや暮らしの問題の解決を求めたコンペとして浸透しつつありますが,次回に向けてどのようなことを考えなければならないのか,第7回のゲスト審査委員を務めていただいた連勇太朗さんを迎えて大東建託の小林克満さんと対談していただきます.
まずは,今年社長に就任され,「生活総合支援企業」をテーマにさまざまな生活支援の展開を目指している大東建託の展望について小林さんにお伺いします.
小林 「生活総合支援企業」とは,主力である賃貸住宅事業を核としつつ,多くの人が集まり住まう場所を提供する立場として何ができるのか,賃貸住宅という場所をつくることでその周辺に必要となる生活支援とはどのようなものなのかを考えるためのキーワードで,コミュニティの形成,災害時の拠点づくり,高齢化への対応といった社会的な役割を担うことを意味します.実はこの考えは,豊島区を舞台として第6回目のコンペを開催した時,豊島区のみなさんとさまざまな意見を交わしたことがひとつのきっかけとなったもので,賃貸住宅と社会を繋ぐ視点の必要性を感じたからです.この対談場所である 「.BASE(ドットベース)虎ノ門」もその取り組みの一環です.近年はさまざまなシェアオフィスが街に溢れていますが,スタートアップを目指す会社の支援を賃貸住宅業とどう絡め,新しいものを生み出すことに繋げていけるのか,その仕組みはまだ試行錯誤中ですが,テストケースとしてまずは拠点をつくりました.このように賃貸住宅コンペから,私たちの新たな活動,新たな価値の創造が生まれています.
「身近な」という言葉をあらためて考えてみる
──連さんに参加していただいた第7回では 「身近な社会問題と向き合う,新たな賃貸住宅とは」 をテーマにコンペを募集しました.第7回を審査されたご感想をお聞かせください.
連 簡単なようで高度なテーマ設定だったと思います.このコンペでは社会問題と賃貸住宅というふたつの軸があり,両方とも曖昧なまま捉えると,たとえば社会問題では 「高齢化」 や 「空き家」 ,賃貸住宅では多機能化するとか,シェアスペースをつくるとか,型にはまった提案しか出てきません.だからこそ 「身近な」という言葉が大事だったと思うんです.「身近な」という言葉が入ることで自分の生活に引き寄せた独自性のある視点を持つことができます.
小林 環境保全や社会貢献など,社会問題と向き合うことが企業にも求められる時代になりました.第7回のテーマで 「身近な」という言葉を使ったのは,既存の企業では対応していない,対応できない,こぼれ落ちている領域があるのではないかと思ったからで,そこを拾い上げてもらうことで賃貸住宅の領域を広げることになるのではないかと期待していました.
連 「身近な」ということを考えるには,新しいライフスタイルの提案が必要だと思うのですが,自分本位の考えでは行政が提案しそうな,問題解決を主眼に置きすぎたウィッシュリストになってしまいます.「こういう賃貸住宅やこういう街だったら住みたい!」と他者に思ってもらえるものになっているのか,客観的に見なければいけません.問題を考える際の発想の仕方が大事です.たとえば,「1カ月のうち1泊ぐらいならおばあちゃんと一緒に過ごしたい.そこで癒されるしご飯も食べられる.そんな選択肢があったらいいな」そういう素朴な感覚が実は社会問題へのアプローチの第一歩になる.そしたら 「おばあちゃんの美味しいご飯を食べたい若者たちがいるかもしれない,そして若者たちから元気をもらえるおばあちゃんがいる.でも彼らは出会っていない」ということが分かる.それが 「課題」や 「問題」の種な訳です.
小林 なるほど,面白いですね.
連 たとえばスタートアップのビジネスのつくり方は,ユーザーインサイトと言って,ユーザー自身も意識していない願望を発見することができるかが鍵になります.ユーザーが潜在的に思っていることだから,ヒアリングしただけでは,その願望は分かりません.しかも100人いたら100人思っていることではなくて,2,3人の人が強く思っていることだったりします.それをちゃんと捕まえられるかどうかが,スタートアップ系企業のビジネスモデルの構築で重要だと言われています.
さまざまな目線から問いを立てる
──連さんは身近な社会問題と向き合い,実際に 「モクチン企画」 や 「@カマタ」 という活動を通して建築をつくり,場所の風景を新たに生み出し,住む人たちの意識や生活を変えています.これらの活動はどういった思いで展開されているのでしょうか.
連 「モクチン企画」を始めた2009年頃は,リノベーション自体もあまり認知されていなくて,木造アパートは古臭く人気がありませんでした.そこで住み手側の目線で考えてみようと思ったのです.マーケットに出ているアパートはどれも住みたいとは思わないけれど,たとえば床を整えるだけで一気に雰囲気が変わっていい感じになったりします.そういうちょっとした感覚を大切にしました.それから不動産会社の目線.改修時の費用をリサーチすると,家賃5万円の部屋に200〜300万円かけているのがわかりました.それでは採算が合わないのは当たり前.費用をかけない選択は原状回復しかない.だったら原状回復+αでできるオプションがたくさん増えたらよいのではないかと.それによって入居者の希望と改修費用の接点をつくることができます.ひとり暮らしする場所を探す時,居室やキッチンが無機質な空間,インターネットの検索でそんな場所ばかり見て切ない気持ちになりました.本来,もっと賃貸住宅は愛されてもいいのにというモチベーション.これが僕にとっての身近な社会問題だったわけです.「@カマタ」も自分たちが拠点にしている東京都大田区蒲田の,町工場や商店街などが雑然としているところが面白く,そこをさらに魅力的にしたいという思いからです.何気ないアクションが仲間を呼び,それが街の風景を変えていく喜びがあります.
小林 大東建託で管理させていただいている賃貸住宅は全国に109万戸あります.連さんが話された意識を持ってオーナーさんたちと向き合えたら,大きな動きがつくれるのではないかなと思いました.地域の中で賃貸住宅をどうポジショニングしていくのか,私たちの意識の問題ですね.
連 私はこれから,賃料0円の時代がくるのではないかという仮説を持っています.戦略的にそうする会社も出てくるでしょう.伏線としてあるのは,自動運転の車をつくっているアメリカのスタートアップ企業の取り組みです.面白いのは,車を売るのではなくタクシー業,しかも無料であることです.乗車した人のパーソナルな属性をITで感知して最適な広告を出す.移動を自由にする代わりに広告費を取ることで成立させる仕組みです.そう考えると賃貸住宅に住んでいる人の生活情報を違うビジネスや収益に繋げ,賃料を0円にすることもあり得る気がします.賃料0円の賃貸住宅ってどのようになるのか,という問いからのアプローチもあるように思います.テクノロジーの発展により,これからはタクシーや賃貸住宅だけでなく,ハードへの対価が下がる状況は十分にあり得るでしょう.社会問題を設定する時に,そういう問いの立て方も当然できるでしょう.
小林 問いの立て方も,賃貸住宅を個で考えるのか群や量で考えるのかで,まったく違った発想になりますね.たとえば自動車業界が進めているカーシェアを考えた時,大東建託が管理させていただいている109万戸の賃貸住宅の駐車場自体も変わる可能性があります.カーシェアでさらに自動運転になれば住宅の形態も変わり,駐車場だった土地の活用も変わってきます.
連 管理戸数の規模があるからこそできるサービスもあるでしょうね.全国に大量に点在していることの可能性は追求するべきだと思います.
建築の限定性と建築の力
──最後に,第8回に応募する人たちへのメッセージをお願いします.
連 今,社会問題の解決を個や家族という単位に頼りすぎている気がします.個人の意思決定は自分の中で完結させ,介護や教育は家族の中でやりましょうみたいな.あまりにも個人主義化しすぎている.これは辛いです.昔はもう少し中間的なコミュニティの選択肢があって,神社やお寺のような宗教施設,企業も少なからずそういった役割をしてきました.でも,時代の流れと共にその中間的な枠組みがかなり弱体化している.地域社会が空洞化していく状況をみなさんに考えてほしいです.いろいろなレベルで多層的でないと社会のセーフティネットは成立しないと思います.
小林 高齢化社会を考えた時,逆にそういう場所で高齢者が働く選択肢もありますよね.高齢者のボランティアは昔よりはるかに増えています.昔はボランティアではなく近所の世話焼きみたいな人がいたけれど,そういうことを繋ぐ場所のあり方ですね.
連 ひとつひとつの取り組みやさまざまな活動の機微をすくい上げ,社会の中にちゃんとした位置付けを与えていくことが大切です.さまざまな意見があると思いますが,建築だけで解決できる問題は限定的だと僕は思います.結局サービスやライフスタイルが空間の可能性を簡単に飛び超えてしまう時代だからです.そういう時代だということを前提に 「さまざまな生活」とは何なのかを問う.建築で何ができるかという問いの立て方は必要な一方で,そこからの発想だけだと型にはまったことしかできない.建築の限定性に自覚的になったうえで,でも建築の力を信じられるかということだと思います.構想力を持って挑んで欲しいです.
小林 賃貸住宅単体で考えると,どうしても発想の幅が狭くなります.仕組みを考え,全国にある賃貸住宅の量やネットワークといった枠組みを意識すれば,社会問題を解決する視点もまた変わってくるのではないでしょうか.連さんの身近な問題からの発想,それをやりたいという思いと社会問題が合致するというお話,その発想はすごく健全で,しかも新鮮です.今回も改めてみなさんに身近な問題を拾い上げていただき,仕組みと魅力ある建築の空間づくりによって新しい賃貸住宅のあり方を提案していただきたいです.
(2019年7月19日,.BASE虎ノ門にて,文責:本誌編集部)
座談会協力
連勇太朗
1987年神奈川県生まれ。
2012年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、
2015年同大学大学院後期博士課程単位取得退学。
2012年にNPO法人モクチン企画を設立、代表理事に就任。
2018年に株式会社@カマタを設立、共同代表に就任。